アルバム
両国高校定時制
伊勢物語
富士の山を見れば、五月のつごもりに、雪いと白う降れり。
時しらぬ山は富士のねいつとてかかのこまだらに雪の降るらん
その山は、ここにたとへば、比叡山を二十ばかり重ねあげたらんほどして、なりは塩尻のやうになんありける。
なほ行き行きて、武蔵の国と下総の国との中に、いと大きなる河あり、それを隅田川といふ。
その川のほとりに群れゐて思ひやれば、限りなく遠くも来にけるかなとわびあへるに、わたし守、「はや舟に乗れ、日も暮れぬ」といふに、乗りて渡らんとするに、みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。
さるをりしも、白き鳥の嘴と脚と赤き、しぎの大きさなる、水のうへに遊びつつ魚を食ふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。わたし守に問ひければ、
「これなん都鳥」といふを聞きて、
名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
とよめりければ、舟こぞりて泣きにけり。