第6日目、10月10日(日)晴れ
道端で朝の食事、きのうの残りのすしを食べる。きょうは日曜日、道路沿いに教会などありそうにない。
日陰は涼しい。下り、海が見えだす。湾が広がっている。前方に桜島だ。
9時30分、垂水フェリーターミナルに着く。35分間の乗船。もっと長く乗っていたい。
冷たいお茶でなく、紙コップのホットコーヒがたまらなくおいしい。桜島を何度も写真に撮る。唯一旅の気分を味わう。
鹿児島市内。鹿児島中央駅の前を通る。人でにぎわっている。路面電車も通っている。
ロード用のサイクリングに乗った若い人に3号への道を聞く。
少し行けば観光スポットがあるよ、と勧めてくれる。でも道草はしたくない。
何人もの人に聞きながら、3号に出る。やっと市街を脱出。バス停でパンをかじる。
ハイカラな食堂があったので入った。セルフサービスだが、明るい店だ。天ぷらうどんを食べる。温かいのがいちばん。
大きなエビが入っていて野菜もたっぷり。特大のにぎりと晩の弁当もまだ早いが、買うことにした。
目の前で車の軽い追突事故。ひょっとして原因はわたし。横の変な自転車を見て、ということがありえる。そうだったら申しわけない。
日差しが強く、目がうつろ。上り下り、しかも向かい風。片側1車線の狭い道ばかり。
歩道を走れば段差があり、車道に出ればこわい。迷うところ。右足のかかとをかばいながら走る。スピードは全く上がらない。
信号待ちの車の窓から「どこから」と聞かれる。
また霊柩車をよく見る。それにお葬式の看板が、何度も目につく。暑い夏で、年寄りにはつらい。
バス停のベンチで20分ほど横になる。
15時、やっと風呂にありつく。このあたりは温泉街らしい。
最初のところで入ろうとしたが、入口がわからない。あきらめてしばらく走る。
今度は風呂の看板はある。が、それらしい建物がない。文化アパートのように、ドアが7、8軒並んでいる。一つ一つが個室になって、中に浴槽がある。
若いお兄さんがいて「どうぞ」と勧める。どうやら家族で入りにくるらしい。
自転車を壁に立てかけ、リックだけを持って扉の中に入る。ひとりだけで気兼ねなく利用できる。
澄んではいるが硫黄の臭いが強く、肌がすべすべになる。温泉が浴槽からあふれ、なんとも贅沢。
ただあちらこちら傷があって、特に足は傷でつけられず、へんな格好で湯につかる。長湯はしなかったが、ほんとうにすっきりした。
6日ぶり、風呂にも入り、弁当も用意できている。あとは寝場所だけ。口が渇いて、走るのも限界にきている。
民家が多くて困ったなと思いながら、ふと見ると、鉄道をくぐる急坂の細い道路がある。
ガードレールに自転車を止め、上がってみると、右の方にだだっ広い草むらがあった。
道はあるが、人は通りそうもない。ただ急な坂、自転車を押しながら必死になって登った。
人は見えないが、ただ電車からは丸見え。でも暗くなればわからない。
ここは市来町。テントを張って弁当を食べる。野菜炒めで、家で食べるような食事だ。暗くなったらあとは休むだけ。
ところが、横になろうと寝袋に収まろうとしたとたん、突然、強烈な光がこちらを照らす。
なんだろう。警察のパトロールか、不審者に間違われているのだろうか。
軽トラックのライトだ。人の土地に無断で侵入している。あやまらなければ。急いでテントの外に出る。
暗やみの車の中の人物が、しきりに「芋を捜しに」と、叫んでいる。何のことかわからない。
ここは鹿児島なんだ。少しして気がつく。「犬を捜している」ということにちがいない。
ホッとしたが、別の不安が。遠くの方で犬がほえている。さいわい犬は姿を見せなかった。
やっと落ち着いて夜空を見上げる。今夜も星空がきれいだ。
ラジオは日本シリーズの決勝戦をやっている。ときどき、電車の轟音でびっくりする。走行距離、75q。