小浜〜西彼


第9日目、10月13日(水)


4時30分に起きる。片づけたあとまだ暗いのでしばらく待つ。風が強い。

長崎まで40q、朝早くから車が多い。上り下りが続く。251の左を行く。

上りきったと思ったら、次の上りが見えている。すり鉢のようなアップダウン、いいかげんにしてくれとつぶやく。

段々畑の海を見ながらの朝食は、またもきのうの弁当の残り。

下の方の畑の中ほどに新しい家が一軒だけ立っている。そこから中学生とおぼしき子どもが、家から出てきて学校に行くようだ。

詩で見るような風景で、こんなところに住んでいたら、いかにもしあわせそうに見える。

上りが続く。自転車を押しながら、まるで登山だ。

朝食のやり直しは、サンドイッチ、牛乳、シャーペットの氷。有料道路、自転車は10円。

市街に入る。やっと長崎市内かと思ったらさにあらず、腹切り坂は高札のようなものもある。まだ一山越えなければならない。

トンネルを抜けさらに走る。長崎駅。市電も走っている。歩道はがたがた、道が悪い。206号がすぐに見つかる。

平和公園が道路沿いにある。階段があるので一度は通り過ぎたが、思い直して引き返す。折角だから見ておくべきだろう。

自転車を階段にもたれ掛け、リックだけ持って上がっていく。

天気もいいので、たくさんの観光客が来ている。学生が多い。大きな銅像の写真を撮ってすぐ戻ってくる。

しばらく走ると、吉野家があった。

豚どん、温かくておいしい。あと野菜系があったら、申し分ないと思っていたら、メニューにあった。食べ終わったあとだった。

腹ができれば、向かい風だがまた元気も出る。佐世保まで65q。

みかんを無人販売で売っていたので買う。7、8個入っていて100円。

百均があったので、イヤホンを二つ。コンビニで弁当、パン二つを買う。

16時30分、オランダ村駐車場。大きな風車がある。ここがハウステンポスかと思ったが、そうでもない。

道の両側が駐車場になっている。こちらの方は荒れ放題で使っていない。

さび付いたシャベルカーが一台転がり、入口の小屋はクモの巣が張っている。

道の向こうはにぎわっているが、こちらは人の気配もない。夜になれば静かになる。道路のそばに木があって隠れる。

きょうは歯も磨けなかった。ギヤーも最低にして、ゆっくりでしか走れなかった。食事をして、あとは寝るだけ。

夜中の1時だった。車もときおり走る。こんなところでまさか信じられない。

静寂の闇の中でふと気がつくと、「ぐぁおぅ〜」という、恐ろしいうなり声。「ぐぉ〜」

野生の息づかいが、まともに耳もとで聞こえる。こんなことがあるのだろうか。

夢中でラジオをつけ、ボリュームを上げる。ライトもつける。横にあるバックを握りしめる。襲われたときはそれで防戦するつもりだ。

この時ほど、静寂が無気味に感じられたことはない。新聞沙汰になってでもしたら、みっともない。そんなことも頭をよぎる。

きっとクマだろう。熊にちがいない。確かめる勇気も余裕もない。敵が見えない不安、恐怖。ただひたすら、立ち去ってくれることを願う。

しばらくして静かになった。が、少し離れたところで、またがさがさ、がさがさ音が続く。そのくり返し。とうとう夜明けまで眠れなかった。

駐車場のうしろに小高い森、大きな山があるわけでない。

野生の動物との出会いは、きのうの夜とこの夜と連続である。

飢えた彼らは、人里に近づいてくるのだろう。

あとで、食べ残しの弁当の強烈な臭いが、彼らを誘っていることを、納得することになった。走った距離、77q。