いつまでも
いつまでも遊ぶのよ

この手がある限りおまいは逃げられない
おまいのつけたこの傷がある限りいつまでも遊ぶの

手を引いて
袖を振って
水がはねて
優しくしかられて

おまいのつけたこの傷がある限りおまいはいつまでも遊んでくれる



「半蔵や」
日の暮れた南庭、足元もおぼつかぬ暗さ。
「半蔵」


わたくしの幼い手のひらを焼いて懲罰房にいれられたのが半蔵だった。
木の上に座らせてくれるのが半蔵だった。
自分で乗せておいて木の上に座っていることにハラハラしてすぐに下ろしてしまうのも半蔵だった。
手をつないでとねだると無言で困りながら手をつないでくれるのが半蔵だった。
(手はごつごつとしてるの)
口布をとってというと素直にとってくれるのが半蔵だった。
とった顔をまじまじと眺めると口布をとる前よりもよほど気まずそうに目をそらすのが半蔵だった。
お風呂に一緒にはいってというと一刀両断に断ったのが半蔵だった。
おのこにいじわるをされて狩場の林の奥に置き去りにされて途方にくれているわたくしを見つけたのが半蔵だった。
(そう、あのときは本当に途方に暮れていたの)
林なんて背が高くってザワザワ言って足の多すぎる虫が横を通り過ぎて避けようと立ち上がったら尖がった形
をした石につまずいてくるぶしをすりむいて
そうしたら半蔵、
おまえが来たのですよ
おまえが来るまで怖くって泣くこともできなかったのに、来た途端・・・


傷痕をさする。
「おらぬのか」と木の上に向かって言ってみると背後でかさりと草を踏む音がした。
見慣れた装束でかしずく姿
今日でこの姿も見ぬと思うとちと名残惜しい。
半蔵はわずかに顔をあげて、わたくしの手の辺りまで見てから地面へと視線を戻した。
・・・まったく、仕様のない。
「きっとそのようにそちが低い姿勢ばかりするから、わたくしの顔まで見なんだね」
独りごちて見ても半蔵めは姿勢を変えない。
「呼んだだけよ、来てくれてありがとう」
「お屋敷にお戻りください」
「夜といっても庭でどうこうということはあるまい」
「池に落ちまする」
「また、古いことを覚えている」
「・・・」
「うん。しかしその通りじゃ、池に落ちるといけないからもう」

もう

「遊ぶのは仕舞いにするよ」




いつまでも
いつまで





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