二日後、石田三成は女中からが風邪治ったという知らせを聞いた。
会いに行った。会いたいと思ったからだ。接し方などちっともわかないけれどそれでも。
部屋はもぬけのからだった。
出発は明日だからまだ屋敷にいるはずだ。探して探して探した。
雪の庭、
娘の姿は後姿、しゃがんで雪の地面をじっと見ている。


三成は歩み寄って立ち尽くしたまま見下ろした。声をかけた。
「あなたの忍を上杉に預けることが決まったそうですね」
「兼続殿の慈悲に甘えさせていただきました」
「ここまで付き従った者達をあなたの傍から放すのが最良とは思いませんが」
「人質として行くのにたくさんの護衛をひきつれることはかないません」
人質、である。笑った声だったが顔が笑っているかなど見えない。
「わたくしの臣下は優秀です、兼続殿のご采配があれば才に見合った功を立てられるでしょう」
「卑屈に聞こえる」
「はい」
語尾は息をつまらせるようなふうだった。
こんなことが言いたかったのではない。
こんな思いをさせたかったのではない。


「・・・なにを見ておいでか」
雪の塊があった。しばらく前にが作ったゆきだるまである。もうほとんどとけている。
はそれをじっと見つめているようだ。
「入りなさい。具合を悪くします」
「ここにいたい」
この、屋敷、に?
「ここにいると何も考えなくてすみます」
唇の端から音をこぼすような音量。壊れた雪だるまの群れるそこにいたいのだという。
「わかりました」
三成は後ろからの肩を引張った。
体勢の均衡が崩れたのを三成の手が引いた。
縁側に草履を脱ぎ捨て屋敷を奥へ奥へと進んでいく。
何人かとすれ違った
無視をした。
が暴れた。
無視をした。
自室の押入れから寝具を引っ張り出して、足で述べた。
夕暮れ過ぎた刻限である。
まだ人は来るかもしれない。
それでもよい
なんでもいい
もうわからない

「まだ、あなたは俺のものだ」

布団に転がして組み敷く。足の間に膝をいれるとはいっそう暴れた。
「この目も」
三成の唇がの瞼にくちづけをおとした。肌の上すれすれを唇が動き、鼻のあたまに接吻、唇にうつる。
「鼻もくちびるも、声も首も背も」
言葉の順に唇をおしあてていく。吐息があたっては息を呑んだ。
「乳房も」
声を出せないの首筋をとおり、胸をあばく。両のふくらみが現れて乳房の先を口にふくんだ。
いい匂いがする。あたたかい
同じ人間とは思えないほどにやわらかい肉である。
口の中に含んで、ときに押しつぶし、ときに吸う。
肌に甘く噛み付いてはいたわるように舐める。
「指も髪もだ」
三成はの指先を口元にあてた。手は強張ってはいない。受け容れるしぐさはなかったが拒否もなかった。
「腹も足も・・・ここも」
指先で秘裂に指の腹をあてる。足を閉じようと膝がたつが、三成の足が間にあってそれもかなわない。
どれもひどく緩慢な動作でおよそ拒絶ではない。
やがて手のひらが三成の頬にあてられて、苦しげに刻まれた眉根のしわを撫でた。
途切れる息の合間に声ははっきりと届いた。
「すべて三成様のものです」


















あたたかい
あたたかい
あたたかい
石田三成はその娘の頭を腕で抱き込む形で目を覚ました。
意識の回復はゆるやかだった。
ゆるやかに状況を思い出し、把握し、理解した。
長い髪を散らせたまま眠らせてしまった。寝癖がついてしまうと怒るか、いや怒るまい。
ただ恥ずかしがるばかりでこの娘は怒るまい。言えばなんでもしてくれるだろう。
だから無体なことは決して言うまい。
人肌のなんとすべらかでぬくいこと。いいにおいがする。
三成は布団から抜け出して支度を整えはじめた。
できた
ぽつりと思った。と交わした。だいぶ痛がってはいたもののは性交ができる。
胎内に射精した、したとも。これでが身ごもればは徳川に嫁ぐ必要がなくなる。
私の子を生みさえできれば私の妻となる。遅すぎた。なにもかも、遅すぎた。

宵はさめざめと明けた。



「三成さま」
「・・・おはよう」
「おはようございまする」
「昨日は無理をさせました、どこもお悪くないか」
「大丈夫です。あ」
「どうした」
「いえ」
「痛むのか」
「三成様の感覚がまだなかに残っております」
三成はう、と言葉に詰まった。はその三成を見ていたずらに成功したように笑った。
「うれしゅうございます」
「そ、そうか」
は起き上がらなかった。起き上がれない。
三成はの枕元に静かに座った。はその膝に額を寄せてそれきり髪で表情は隠されてしまった。

「徳川のお方が」

の声は震えている。

「うん」
「三成様のお声と似ているといい」

「三成様の背丈と同じだといい」

「三成様と暖かさが同じだといい」

「三成様だといい」

いとしい
いとおしい
いと

「さびしい」

それは三成の声であった。
さあもう一度長いくちづけ
お腹が痛いようだ。
寝起きの子供の体温を抱きしめる。



「殿」

肌蹴た夜着のままの二人の部屋の前に、よく知る男の声が聞こえた。



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