毒矢はこれまであなたに施された“いたずら”の毒と主旨が異なる。暗殺を旨とする。
首謀はあなたと張遼将軍の結びつきを善しとせぬ者。
瑞宮が彼軍の守護下にあるうち、速やかに結ぶのが最善である。

「首謀の首に鈴をつけた。再び動き次第こちらで捕らえる。とく、結ばれたし。火中」



部屋で一人、蝋燭の頼りない灯りで読んだ。
張遼が帰るのと入れ違いに届けられた、司馬懿からの手紙である。
火中、文末にあるとおり、燭台に手紙をくべた。
炎が一瞬膨らむ。

三つの言葉と情景が浮かぶ。
一つは張遼、
「私はあなたが好きです」
一つは曹丕、
「大丈夫だ。おまえに母上がなくとも我らきょうだいの絆がある」
一つは泣く子供達の花びらの輪
幼い日から脈々とわが身と心を守ってくれた泣く子供達の花びらの輪

毒矢の首謀者は末席の姫が彼と結びつくのを嫌う者。
いやおう無く曹家の娘、を持つ、母君達を想像させる。
張遼の言葉はかつてないほど心を舞い上がらせたのに、消沈していく。
心が醜くなっていく
捻じ曲がっていく
ひしゃげて
張遼がくれようとしたできかけの絆をとることはこれまでわたくしを守り続けた絆、いとしいきょうだい達の輪を裂くこと
ならばいらぬ
輪に亀裂をいれるのはわたくしであってはならない
たとえ、もはや輪など無



思考をそこで断ち、炎は手紙を喰い終えた。






<<  >>