勝利の祝いに戦利品を手に入れたのは馬超であった。
運のいいことに主要な御偉方は皆すでにそれぞれの天幕にひきあげていたのだ。
残っていた面子のなかで一番位の高かった彼が、”名高きの姫”を得た。
姫君を天幕に引き込むまで部下たちの嘆息が聞こえた。
「将軍、おわったら俺たちにもわけてくださいよ」
朝までに終わったらな、と返すとワハハと笑い声が場をみたした。その明るい笑い声のなかに曹操の寵姫だった娘など思いやるものはひとりもない。当然だ、憎むべき魏。
魏の持ち物を奪い取ることができて、それがもとは異国のものであったのだとしてもそんなことは関係ない、ただ優越感と勝利の快感があるばかり。
皆、酒はもう充分に飲んでいた。
馬超は女の腰に手をまわし、引き寄せている。

「・・・お放し下さい」

男たちの笑い声の中に小さくその声を聞き、馬超は目を見張った。
女は馬超を見ずに少し先の地面を睨んでいた。表情には不快も露わだ。
馬超は思う。
この気位の高い女は必ず曹操に抱かれている。曹操はくやしいだろう、遠征してきて大敗。おまけにご寵愛を蜀に奪われて、滅ぼしたはずの西涼の獣に寝取られた。
憎しみと優越、少々の酒が馬超を常の彼らしくない方向に向かわせていた。
幕をくぐるなり後ろから羽交い絞めにして固い寝台に押し付ける。

「うっ・・・」

乱暴に着物を剥いでいく。水に落ちたという姫の着物は重い。抗う手は馬超の体に傷をつけることはついにかなわない。
手がぎゅっと握られている。引っ掻くならわかるが、こぶしで殴る気かと馬超は呆れる。
最初のうちは必死に全身で馬超を拒んでいたが、あざけるような長い愛撫の間に目には決してこぼれぬくやし涙がにじんでいた。
淫売であればすぐに快楽に身を任せ腰をふりはじめるだろうと踏んでいた馬超はそうなるときを待っていた。あきれる準備をしていた。
こんな安い雌を曹操は抱いていたのかと勝ち誇ってやりたかった。
しかして、目の前の身体は腰を振らない。甘える声音も、取り入ろうとする艶かしい誘いもない。
手はぎゅっと握り続けている。
手首を寝台に縫いとめた。
それでもまだ握っている。
気になった。
乳房をついばむのをやめてかたく閉じた指をひとつひとつ、開いていく。
娘の表情が動いた。

「いやじゃ」

姫君は拳を引こうとする。
馬超はいよいよ中を暴くことに決めた。
応戦は甲斐なく手の平の中心に、それは

「石?」

馬超が首を傾げた。取り上げようとすると手に噛み付かれた。

「痛て!」

姫は寝台に落ちた石を拾って再び握り締めた。

「なんだなんだ、好きな男にでも貰ったのか?」
「そなたには関係の無いこと」
「ふむ、確かに俺には関係ないな」

馬超は圧し掛かる。
暗がりにうつ伏せにし、頭を押さえつける。

「噛み付いた礼だ、手酷くする」

声は低く地を這う。
あてがう。

「その男のことでも考えているといい」

姫はひっと息をのむ
彼女自身の爪が石を握る親指の腹に喰いこんだ。



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