面倒だった、嫌だった、不可解だった
そんな感想ばかりシャーロックは垂れ流した。
昨日シャーロックが行った地方、つまりの家かある地方では大雨洪水警報が出ていてテレビでは川の増水で道路が寸断され大規模停電も起きていると言うニュースがあった。電話も通じないし、メールの返信もなく、僕は一応心配していた。
しかしあの、世界をその部屋だけにするような大雨のなか、シャーロックは真夜中まであんな妖精みたいに美しい女性に寄り添って彼女の部屋で美しい童話を読み聞かせていたという。きっと天蓋のついた広いベッドだ。いい匂いだってしただろう。悔しいことにシャーロックの声は低くて体に灯るように響く。
なのに、先に眠ったの額にキスひとつしなかったに違いないシャーロックがうらやましすぎて、もったいなさすぎて僕は抱き枕を抱えて自分のベッドをのたうちまわり、ようやく寝つけたのは明け方だった。



依頼3日目

だるく起き出したのは朝10時頃で、おなかへった、の一念だけでタオルをひきずり、尻をかきかきパンツとシャツ姿のまま階段を下りた。

「おはようございます」

女性の声がして僕は一気に覚醒した。手持ちのタオルで思わず体を隠す。

「ごめ、悪い。すみません、いるの、忘れてて」
「ゆっくり起きるのはわたくしも好きです」

リビングの長ソファで美しい王女殿下が微笑んでいる。
こっちを向いていたとしてもその目は見えていないことに今やっと記憶がおいついてきた。幸い、彼女は僕が寝坊したことを謝ったのだと思ってくれている。
それでもやはりあの清らかで高貴なまなざしにはさらし難く、一度上にもどってチェックのシャツとジーンズを着込んでからのほうを見ないように早足に洗面所に飛び込んだ。
心臓が止まるかと思ったけれど、シャワーを浴びつつ、まあ悪くない刺激だったと僕は少し上機嫌になった。このシャワーを朝あの人も使ったかと思いつくとちょっとドキドキもした。
髭をあたり、念入りに歯を磨きながら鏡に映る自分を見る。
(ってことはこのまま全裸で彼女の前に出ていっても大丈夫なわけだ)
「なんてな」と自嘲し、ちゃんと洋服を着こんでリビングに行くと、毛布を体に巻き付けただけのシャーロックがテーブルに広げたロンドンの地図を挟んでと対峙していた。あの中は全裸だと、はみ出した手足と経験則から僕はそう確信した。

「話しかけるな、今いそがしい。食事なら今朝ハドソンさんが戻って」
「シャーロック」
「静かにしろと言っただろう。いま目が見えなくても楽しめる観光スポットを探している。ぼくが地図をひろげていることに驚いているのだろうがそんな観点で情報を分類した試しはないからこれは必要な作業だ。いまのところ第一候補はビッグベン、あと近いからテムズ川か。せせらぎの音があるしよく死体も上がる。きょうは11時30分から近衛兵の交代式もあ」

「シャーロック!」

上官ばりの激怒の僕にビリリと震えあがり、「服を着ろ」とに聞こえないように凄んでシャーロックの寝室に放り込んだ。
「それから、行き先の話は昨日決めた、君は聞いてなかったけどっ」



「やあ失礼。シャーロックは少し用事が。すぐ戻るよ。ところでほかにどこか行きたいところは見つけたかい」
「シャーロックがバイオリンを聞かせてくださると」
「せっかくロンドンに来たのにシャーロックのバイオリン?」

はうなずき軽やかに微笑んだ。ベーカー街の空気が澄みわたる。

「あなたもクラリネットを吹けるとか」
「いやあ、聞かせられるほどのものじゃあ。あなたもなにか楽器を?」
「ひとが演奏しているのを見るのは大好きなのですけれど、自分ではまったくできないのです」
「そう?意外だな、いかにもピアノでノクターンを弾いていたらまず似合うよ、見とれてしまう」
「それは、きっとすばらしい褒め言葉ね」
「もちろん」
「ありがとう」

いいなあ、少し照れて、普通の会話ができるのは久しぶりだ。
お出かけには絶対ついて行ってやろうと決心したとき、白いシャツに黒いスラックス姿のシャーロックがハートフルな僕らの世界を蒸気機関車でぶち破るようにつかつかとリビングに進んできた。

「普通の会話を楽しんだと思ってにやにやしているようだがジョン、彼女が演奏を見るのを楽しいと言った意味は、空気を震わす音の振動を彼女の目は見ることができるからだ。聴覚じゃない、視覚でめでているんだ。どんな景色が見えているのかは知らないがさっき聞いたところによると“とてもきれい”らしいぞ、その音の振動の波紋を作るその一粒の奥の奥というのは。普通の会話じゃない」
「別にどっちだっていいだろ、僕らの演奏を楽しみにしてるって言ってくれてるんだ」
「ああ、そうか。わかったぞ。あのおぞましい童話をぼくに読ませたのも、ぼくの声の波紋を楽しんでいたのか。知らない人間の声だから。ロンドンに来たのも人が大勢いるから、知らない人間の声の粒子と波紋で満たされている場所だ」
「あれは、あなたの声が素敵だったから」
「クソ、そっちか!」

気があるようなことを言われているのに、推理がはずれたことを悔しがるだけの男を前に、僕は絶対今日のデートについて行ってやるという思いをあらたにした。






いざ、バッキンガム宮殿の衛兵交代式!
これでバレたらマイクロフトのせい。
お嬢さんの手をひいて降りるなんて役割を思いつくこともなく先に階段を降りて死ぬほど退屈そうな顔をしているシャーロックに感謝する。階段のうえの踊り場で手すりをさぐる姫君は、田舎から都会に出てきた気合のあらわれか上品なハイヒールを履いていて、ひとりで階段を降りる勇気を準備している。杖も持たないのはいつもは従者がいるからだろうか。
ともかく頼りない様子にきゅんと胸を高鳴らせ、僕が優しい声をかけようとしたとき、が不意に視線をあげた。
直後にシャーロックの携帯電話が短く鳴った。

「歩ける?」

背に手をそえて「一緒に、ゆっくり降りよう」と促したが、突然すごい勢いで階段を上ってきたシャーロックがを抱きかかえると、あっという間に階段の下にその体を持って行ってしまった。

「何をぐずぐずしているんだジョン!急げ、密室殺人だっ」

少年のように輝く目ん玉と上がった口角、さきほどのメールはどうやらスコットランドヤードのレストレード警部だったようだ。
「わかったって。だが今日だけはよせよシャーロック、彼女のエスコートがある」
「当然、連れて行くに決まっているだろう」
「ばか言え」
「ばかを言っているのは君だぞジョン。見ろ!」

前置きなしにシャーロックはの下まぶたを下へ引いた。

「この目はふつうの人間に見えていないものが見えるんだぞ、死体を見せて何がみえるのか知りたいと思うのが普通だろう!これこれ、この時を待っていたんだ僕は」

戦慄する僕を無視して、新しいDNA鑑定方法でも見つけたときのようにシャーロックは歓喜の声をほとばしらせた。






「やあ、早かったな」
グレッグ・レストレード警部は部下たちの冷ややかな視線を受けながら、到着したシャーロックを規制テープの内側へ促した。シャーロックは挨拶もせずに、あまたの情報を読み取る視線を曇り空の住宅街にめぐらす。

「一応言うが、現場に入るのに鑑識服を」
「死体はどこだ」

レストレードはもはやそれ以上鑑識用の服を着せようと試みることはなく、あきらめ方に慣れが垣間見えた。

「こっちだ。ついて来…」

レストレードは説明と足をとめた。シャーロックがコートの袖ごと手首を掴んで引っ張っている乙女の姿に気が付いたのだ。レストレードは僕ととシャーロックの顔を何往復かさせ、ギリ想像の範囲内の候補を口にした。

「いとこ?」
「他人だ」
「へ?」
と言います、はじめまして」
「そんなことより、死体はどこなんだ」
「待て待て待て待てって、事件関係者でもないのに入れられないよ」
「僕もそう思う。シャーロック、いまは置いて行こう。、すぐ済むからしばらくここで待っ」
「ぼくもジョンも事件関係者ではない。それに彼女のこの目は捜査に役立つすぐれた洞察力を持っている」
あのシャーロックが人を褒めたことに衝撃を受けながらも、情に厚いレストレードはこれだけは承知しなかった。
「なんだかよくわからんがともかくお嬢さんには見せられんよ。だいぶその…とっちらかっているんだ、パーツが」
「問題ない。目は見えていない」
「は?だって今この目がすぐれてるって、あ、おいコラ、ちょっと待てって、勝手に行くな!」



中から施錠された地下室の鉄の扉の向こう、胃酸で溶けかけた大量のシナモンクッキーと肉片を天井にまでとっちらからせてスプラッタになっていた遺体の謎を、シャーロックはものの5分で解き明かしてしまった。見事と言うほかなかった。
結局手の込んだ自殺だったので解決後はたいそう退屈そうな顔に戻ってしまったが、思い出したように「なにかある?」とに振った。
は困惑の表情を見せた。
レストレードが何事かと怪訝そうに様子をうかがっている。
僕は非常識なシャーロックからをかばって「よせよ」と言ってやるべき立場だが、それを言わずに僕もが何か言うのを待った。少しだがここまでと会話をしてきた限りでは彼女が奇をてらって「幽霊が見える」とか言い出すタイプには思えなかったし、外国政府やマイクロフトが足繁く通うほどの視界になにがどんなふうに見えているのか、聞いてみたいと言う好奇心もあった。
沈黙に責めたてられてようやく発せられた声にはためらいの色が混じっていた。

「…この方が大好きな音楽は日本のアニメソング」
「そんなことはシャツと、さっき通ったリビングを見ればわかる」
「ほかには?」

の目が再び無残な遺体へ向けられた。
秋も終わりかけているこの時期に暖房もついていない現場で、の額にはうっすら汗さえ浮かんでいた。淡い黄金色した光彩のなかで真っ黒い瞳孔がひときわ収縮したのが見えた。

「…奥様も同じ趣味で…毎日が本当にしあわせだったけれど、奥様はずっと前に亡くなられています」
「ずっと前じゃない、一年前だ。それもリビングに写真があった。アンダーソンだってわかることだ」
「本当に愛していたのです」
「写真を飾り続けるくらいだからな。そこらじゅう形見だらけで他の女に行く気はなさそうだったってことは子供にだってわかる。だがそれくらいで死ぬのは愚かだ。つまらん」

語られたのはごく一般的な内容だったうえ彼の嫌う情緒と慕情の登場に、シャーロックは嘆かわしく首を振った。いつも僕が推理して見せたときのように、僕を小馬鹿にして「帰るぞ」と言い放ち、早々異臭立ち込める地下室を出て行こうとしたが斜め後ろに立っていた僕とすれ違ったあたりでシャーロックは立ち止まった。いまの推理はいつもの僕の推理ではないのだから。人の目を見てしゃべらないから間違うんだぞ。
ゆっくりとを振り返り、腕を両側から掴んでキスするほど顔を寄せの両目を指で開いた。ののけぞった薄い背は今にも折れてしまいそうだ。
その距離のままシャーロックが低く言う。

「何を見た」
「シャーロック、よせ」
「本当は普通に見えているのか、兄もCIAもだます手腕を持っていてなぜこんなところでしっぽを出す。魂胆を言え。いや違う、そうか、わかったぞ…!」
「よせったら!」

グレッグも加わってシャーロックをからなんとか引きはがす。シャーロックはまだ猛禽の目をしてをまっすぐに射抜いている。この目は彼の興奮と集中をあらわすものだ。僕は渾身の力でシャーロックを縫い止めた。
は驚いた様子で立ちつくし、けれどシャーロックを見上げている美しい目はやはり焦点が少しずれたままだった。
二人がかりで羽交い絞めに押さえられているシャーロックはなおも詰め寄ろうと長い両手足をバタつかせ、言葉を次げないに大声を張り上げた。

「遺伝子の記憶を読むなんて、ズルい!」






生物の器官はどこかに書かれた命令どおりに動いている。たとえば見染めた相手とセックスして子を産み、子供はかわいいと思われる姿で生まれ、僕達はその子供を見てかわいいと思う。教えられなくても僕らの多くがそうなるのは、遺伝子に刻まれた命令を細胞たちが遂行しようとするからだといわれている。たまに命令と違う動きをするのが癌細胞だったり、シャーロックだったりする。さかんに研究が行われている分野だが未だに解明されていない部分はあまりに多い。
シャーロックが「遺伝子の記憶」と呼んだ、人類がまだ発見していないなにかがまさか彼女には本当に見えているのだろうか。道端の占い師が言ったら絶対に信じないが、なにせ相手は王女様だ。
畏れながら どんなものが見えたのかに尋ねてみたけれど、どうやら特に文字や動く映像で見えているわけではないらしい。紙とペンを渡してみると、震える手でじゃがいもらしきものが描かれた。
なんと褒めるべきか僕がしばし言葉を失っていると、の頬にさっと朱が差し、次には青ざめた。

「申し訳ありません。絵は、苦手で…」
「いや、ぼくこそ」

衛兵交代式に行くはずが自殺現場に連れてこられ動揺するのは無理はない。
これ以上聞き出すのは酷というものだ。
完全にこちらが悪かった。
切ない横顔とへたくそな絵に胸がきゅうっと熱くなり、僕のなかの寛容メーターはたやすく振り切れた。

シャーロックはそういうズルしたみたいな目は気に入らなかったのか、事件現場からベーカー街に戻って来てからずっと長ソファに寝転がり、縮こまってこちらに背を向けている。
僕がの目のことをちょっとだけ信じているのは、は人間を超越した能力を持った傲慢な妖精の女王ではなく、ビッグベンもテムズ川も連れて行ってもらえないほどシャーロックを不機嫌にさせたと知って、体をこわばらせ悪いことをしたのではないかと気を落とす普通のひとだと、帰り道で手を引く役を譲られて知ったからだった。

「気にすることないよ」
「ありがとう」

無理して笑ったの手袋をはずして、あの小さい手を直接握ってやったらよかったとベーカー街221Bに戻ってから後悔した。



衛兵交代式は11時半、ビッグベンは正午にその大鐘を鳴らす。
すでに14時を過ぎている今からテムズ川のせせらぎだけ聞かせにいくのではあんまりなデートプランだ。おまけに外は雨が降り出し、シャーロックの機嫌は悪くは落ち込んでいる。
ハドソンさんがいたらせめて場を和ませてくれそうなものだが、今朝旅行から帰ってきたばかりというのに忙しくもまた出かけているらしい。観光3日目も自殺現場に行った以外何も思い出がないまま、静かに時だけが過ぎていく。
一度レストレードが221Bのブザーを押してを人さらいしてきたのでないか改めて確認しにやってきたが、がとてつもなくお上品なお言葉でスコットランドヤードの日々の活躍を褒め称えたので、世界の違う人類におののいてもじもじしながら帰って行った。帰り際、痩せ細ったシャーロックを心配したのか美人にいいとこ見せたかったのか、「これでうまいもんでも食いな」と僕の手にいくらか握らせてくれたことは本当に感謝した。
お姫様はジャンクフードなど食べたことが無いだろう。夕方前にピザを頼んで振る舞うとシャーロックが一口も食べなかった代わりにはまるごと一枚ぺろりと食べた。痩せの大食いというやつだ。太りやすい体質のマイクロフトが見たらうらやましがるだろう。

僕らがフルオープンUNOをはじめた頃、シャーロックはバイオリンをめちゃくちゃに弾きまくっていた。
は高級そうな服がしわになってしまうからと僕のすすめで早々シャワーを浴び寝間着に着替えて、シャーロックのガウンを細い体にまきつけている。はだいぶリラックスした様子でゲームに熱中したし、みずみずしい若い体が寝間着とガウンごしに目の前にあるかと思うと僕も熱が入った。ゲームに。
フルオープンUNOとは僕がさっきつけた名前で、UNOの手持ち札を全部見せながらやるUNOだ。手札がわかっている以上、相手が次にどれを出すのか先の先まで推理しながら心理戦を繰り広げプレイしなくてはならないのでなかなか面白かった。
僕はを勝たせてやりたかったしそうするべきだったのに、新鮮な心理戦UNOにのめりこむあまりゲームに弱い僕が思いっきり勝ってしまった。

「なんというか、ごめん」
「なにも謝ることはありません。はじめて遊びましたがUNOはとても楽しいものですね。屋敷に戻ったらメイド達とも遊んでみます」
「そう言ってもらえると助かるよ。今は後ろであれが高機能ポンコツになっちゃってるからいれなかったけど、でも次やるときはもっと大勢でやったほうが楽しい。かけひきがね」
「ドロツー地獄ですね」
「そうそう。あとSkipいじめ」

は歯を見せて少女のように笑ってから気を遣って後ろへも声をかけた。

「あなたの演奏もすばらしいBGMでした」
「褒めないで。あいつは聞いてないふりして聞いてて、調子に乗るから」



戻ってきたハドソンさんにホームズ家の親戚としてを紹介し談笑が生まれた夜までシャーロックはずっと不機嫌そうだったが、につらくあたったりすることはなかったのはせめてよかった。
はきょうは18時頃、前と同じく糸が切れたように突然ソファで眠ってしまった。
揺すっても起きないので僕は精神の宮殿に入り込んでいるシャーロックに尋ねた。

「また君のベッドを使っても?」
「好きにしろ」

精神の宮殿とはシャーロック曰く、彼の頭の中に作られた架空の地図で膨大な知識が配置されているらしい。地図を辿れるかぎり、理論上は何かを忘れることはない、というのがシャーロックの言い分だ。
返事が返ってくることさえ期待していなかったが、彼は彼の中の宮殿に入ったまま確かにそう応じたのだった。

シャーロックの寝室にを運び、リビングに戻ってきてしばらくしてからのことだ。
シャーロックはおもむろに立ち上がった。
「どうかした?」
「…」
一度暖炉のほうを向いてからシャーロックは返事もしないで自分の寝室へ幽霊のように音もなく入って行った。何をしに行くのか気になって椅子から首を伸ばしてみたがよく見えない。
一分もせずにシャーロックは戻ってきて、ソファに腰かけると再び顔の前で指先をぴたりと合わせ、精神の宮殿にこもってしまった。
「…寝顔見に行ったの?」
「…」
「君がそんなことするわけないか。じゃあ、盗聴器とか?」
「…」
こうなると何を話しかけても、僕がどう動いてもシャーロックの意識には接触できなくなる。
ならば聞くより見に行った方が早い。
彼の寝室まで行った僕はシャーロックのベッドで眠るの首のそばに、ひとつの頭がい骨が寄り添っているのを発見したのだった。
普通の人が見たら嫌がらせに違いないが、僕は即座に、シャーロックはきょうの観光を台無しにした罪滅ぼしにドクロのビリーを貸したのだとわかった。たぶん、お人形がわり。
年下とはいえ二十代の女性にお人形を渡してしまったのはシャーロックの世間とのズレがきれいにあらわれた事例といえるだろう。だが僕の胸には子供の成長を見た親のような誇らしい気持ちが去来していた。

は眠っていたし、起きたとしてもその目がドクロをドクロと認識できないから、ちょっと固めのムーミンのぬいぐるみくらいに思ってくれるはずだ。
マイクロフトのことを爆笑できる立場じゃないじゃないかと、僕は言いたいけど絶対言わない。



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