逃げている途中で木の根に転んで草履を片方失った。背の低い葉で手を切った。背の高い木々の間、でごぼこした獣道を走るのはお屋敷育ちのには容易なことではない。
お逃げくださいと押しだされたままに走りだしたが、どちらの方向に向かっているのかさえわからない。
皆に報せなくてはならない。皆は傾斜の上にいるはずと思って下り坂を行かぬようにだけ心に留めたがはたしてどの方角が正解なのか考える余力はなかった。
追ってきた者どもはを屋敷で襲った連中と同じような粗末な格好をしていた。屍から使える鎧だけ剥ぎ取って着けているような、山の者たち。息がきれて大樹にもたれた。後ろを振り返ろうとするともたれた幹にドッと矢が突き立った。咄嗟に木から体を離した先、踏むはずの地面はそこになかった。



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