【本館ゲストルーム】赤崎と五輪代表友だち



物言わぬ物体になるまで有里につぶされてから3時間、赤崎はようやく復活した。
二つ折りの座布団からぼんやりと視線をめぐらせるとそこは宴会場ではなく、客室だと理解した。

「おーう。大人の階段のぼった気分はどうよ。遼ちゃん」

轟沈した赤崎を介抱したベテラン丹波、堺、石神、堀田がテーブルから振り返った。

「・・・世界、リアルに回ったッス」

「ギャハー!まあいい勉強になったな。酒場で酒屋の娘に手を出すな、てさ」
「ガミ、赤崎に水渡してやれ」
「堀田君、お水よろしく」
「ガミさん一番近いじゃないですか。いいですけど。ほら赤崎、水だ。飲めるか」

目を開けたものの、座布団の枕から起き上がれない赤崎に堀田から水が差し出された。
これが丹波か石神が差し出したものなら清酒ではと疑うが、堀田ならば勘繰りはいらない。
赤崎は「・・・ス」とお礼とは言えないような礼を述べて水を受け取った。
身体を起こすと目の奥に重いものが落ちてくるような感覚があって意識が明滅しかける。
水を飲み下すと、冷たくてひどく心地よい。
ほっとした。

「あんま無理すんなよ」

なぐさめるような堀田の笑顔に、赤崎は思わずときめきそうになった。

「つかさ、おまえ被弾してたから知らないと思うけど、コシさんの話だとヴィクトリーが隣のホテル来てるらしいぜ。慰安旅行だと」
「そうだ。おまえ行ってきたらいいじゃん。五輪代表いんだろ。えっと、あいつ、八雲くん?」
「三雲だろ、石神」

「嫌ッス」

赤崎の返事は短く早かった。
声はカラになったグラスの底へ向けられている。

「なんで」
「無理っす」
「なんでぇ?」
「・・・ぜんぜ」
「え?なに?」

きゅっ、とグラスを持つ赤崎の両手に力がこもった。

「全然・・・仲良くなれなかったんで」







キュキュン!







ベテラン達にキュンが走った。
酔って世界を回してリバースしてぶっ倒れた赤崎は、か弱い乙女のように儚げで、心なしか良い方向に素直である。
その姿に丹波は涙をこらえずずいと赤崎に膝をにじり寄せた。

「ほら、赤崎」

と椿に買ってこさせたコンドームの箱を一つ丸ごとプレゼントした。

「・・・俺、彼女もいねえす」

余計表情を翳らせ、しまいには指先を震わせる赤崎に、丹波はぶわと溢れた涙をこらえることはできなかった。

「バッキャロウ!五輪がなんだ!女がなんだ!おれたちが仲間がいるじゃねえか!」

「丹さん・・・」

ガバチョ!

「ってくっせ!酒くせえっ!放れろよオッサン!」



「「おうテメエおもて出ろクソガキ」」

「31歳のお二人、落ち着いてください」



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