【新館ゲストルーム】 城西の部屋のアメニティ



二人は15分ほど伸びていたが、やがて今まで昼寝でもしていたように大きく伸びをして起き出した。

「二人とも、急に倒れるから心配したんだぞ」
「うん。だから言ったじゃん。ビターンてなるって」
「驚かせてごめんなさいシロさん」
「二人とも無事ならいい。さあ、もう遅いから歯を磨いて寝ようか」

「「はーい」」

城西を学校の先生に見立てて二人は素直な返事を返し、バタバタと洗面所に駆け込んでいった。
やがてしゃこしゃことブラッシングの二重奏が聞こえ始める。
城西も膝を起こす。吐いたため息は疲労ばかりではない。
もちろん振り回されるのは疲れるが、あの双子が互いの次に特別に心をひらいてくれているのが自分だけのような気がしてひそやかな優越感があるのだ。
恋でも友情でもないこの感覚はなんと名のつくものなのだろう。

「持田、ひとつずれてくれるか。俺も磨くよ」

洗面所に顔を出す。
歯ブラシを口に突っ込んでいるのでいつもの悪態は出ず、と持田は一歩ずつ左にそれて城西に水道の前を譲った。
アメニティの歯ブラシに手を伸ば・・・












【新館ゲストルーム】 堀の部屋



「どうぞ。でも歯ブラシニ本なかったですか」

部屋にあった歯ブラシは双子が使ってしまったので、隣の部屋の堀から歯ブラシを借りた。
エグゼクティブフロアのゲストルームは基本的には二人用の仕様にしつらえられている。アメニティも二人分だ。

「ありがとう。ニ本あったんだが、使われてしまってな」
「えっ、まさか持田が女連れ込んだりしてるんじゃ」
「女?ああ、まあ・・・女性には違いないが」
「く、くそ・・・なんでいつもあいつばっかり」

なぜだが堀はプンスカ怒り出した。が、突然はっとなにか気づいた顔をした。

「ま、まさか!シロさん一緒の部屋ってことは、さ、サンピィ!?ですか!?サンピィ!?どう、どうやって!そういえばさっきビターンって人を押し倒すような音がっ」

堀は勘違いをして城西に詰め寄った。
勘違いは勘違いだ。彼が思うようなことなど起こりえない。
とはいえ、城西が問題だと感じるのはチームメイトのひとりが欲求不満に陥っているということだ。
ここはキャプテンとして、問題解決のための具体的で効果的なアプローチを提案すべきであろう。
そう考えた。

「落ち着くんだ堀」

いかった堀の肩にぽんと手を置き、落ち着かせる。

「持田によるとわいせつなチャンネルが用意されているそうだから、しっかりガス抜きをするといい」

堀は涙を浮かべて打ち震え「キャプテンのドヤっとスケべ!!」と叫ぶとドアを閉められてしまった。












【新館ゲストルーム】 城西の部屋と嬌声



「蓮、これ、きもちぃ?」
「んぅ・・・あっ、そこ、もっと」

部屋に戻った瞬間、いまは死角にある寝室から城西の耳に切なげな声音が届いた。
ズンと城西の足に重力がかかる。
足が床に張り付いたように前に進めない。
青ざめ、(しかしこれは絶対違う)と自分に言い聞かせた。
断じてが上に乗って持田を気持ちよくしているビジョンなどない。
確信している。

「もっとそれ、ぬるぬるにして。擦れて、ヤ・・・」

ここここれはあれだっ、マ、マッサージ用のローショ・・・オイルの話に決まっている。
絶対絶対見たくないが見てみたいような気がするピンクビジョンなどそこにないと確信しろと自分に言い聞かせる。
恐る恐る思い歩を進めた。
だんだんと嬌声が近く、生々しさを増してゆく。

「こっち。蓮ここ、ここイタいの?」

ほ、ほら!マッサージだった!あたりだ!
城西が覗き込んだ先の寝室で、布団にうつぶせの持田の腰にがまたがって彼の背中を指圧していた。傍らには紫色の可愛らしいボトルがある。漂うよい香りからして、ラベンダーのボディオイルだろう。

「んっ、あっ、は・・・バカ、いたくすんなよ・・・」
「どうして欲しいの?」
「もっと・・・やさしく」
「声、ヘンなふうに出さないで」
「誰が出させて、ヤッ・・・やらってば」
「ヤってどうして?痛い?」
「ヨすぎてやだっつってんの、わかれよ・・・っ」
「わかるよ。蓮きもちぃのガマンしないで」



「マッサージってわかってるけど二人とも頼むからやめてくれ!」



「シロさんもやってもらうといいよ。こいつゴッドハンドだから「ああん」とか言うっちゃうよ」
「え?(わくっ)」







【新館ゲストルーム】 堀の部屋2



堀はグラスを壁にあて盗聴していた。

(も、持田に続いてシロさんまであんあん言わされてる・・・!どんだけテクニシャンな女なんだよっ!?チクショウ!)



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