【本館卓球場】チキチキ☆プロサッカー選手だらけの卓球選手権!
城西vs椿
死闘だった。
フィールドでのマッチアップとしては無くはない組み合わせだが、卓球で火花を散らす火が来ようとは誰が想像しただろう。ちなみに持田妹はあきれてとっくに立ち去った。
カーン!と高い音が本館卓球場に響く。
決死の思いがこめられた(らしい)スマッシュは卓球台に触れることなく、床へと落ちた。
がくりと膝を着いたのは椿だった。
「勝者、城西」
長いラリーを制した城西は高く拳を振り上げ、汗がパッと散った。
俺はなぜか巻き込まれ審判をしていた。わけがわからん。
しかし、この結果は興味深いものもある。
機敏さでいえば若い椿に軍配が上がるかと思いきやそうはならなかった。同じチームに持田がいるためにその能力が突出しているようには見えないが、城西は人並み以上に動体視力がいい。加えてボールへの反応、最後まで決して諦めない姿勢、悪く言としつこさ、どんな試合にも全身全霊で立ち向かう心意気。それらは椿の若さと才能をも凌駕した。
インタビューでいいことばかり言おうとするが、本人は本当にそのきれいごとを実現しようと真摯に努力するのだ。その、いっそ人間味が無いとさえ揶揄される人間性は敵ながら尊敬に値する。これが東京ヴィクトリーのキャプテンを任された男、そして日本代表なのだ。
「持田っ、紅葉さんのせ、制服姿を!」
前言撤回。
卓球台横のベンチに腰掛けていた持田はふっと唇の端をもちあげた。
「バカだな、シロさんは」
持田は組んでいた足をゆっくり床へと下ろした。
色素の薄い瞳がぎらりと強い光を帯びる。
「勝者は王に挑む権利を得るんだよ」
【本館卓球場】チキチキ☆プロサッカー選手だらけの卓球選手権!
持田vs城西
ズバコーン!
卓球であるにも関わらずそんな効果音を伴って、持田のスマッシュが決まった。
城西は球に反応こそするものの得点には至らず、序盤から持田の圧倒的な試合運びが続いていた。
あと一点持田がとれば、勝負は決まる。
サーバーは持田、大鷲が天空から兎を捕捉し頭上をゆうゆうと旋回するがごとく、手のひらで小さな球をもてあそぶ。
やがて、手元を隠すような独特のフォームで構えると、白球は高く天井へ放たれた。
「クッ!」
城西のラケットはかろうじて持田のサーブを捉えたが、球はむなしくネットへかかり、自陣で三度力なく跳ねた。
「・・・なぜだ」
「ふん」
城西は息を切らし、それからギリリと奥歯をかみ締め悔しさに顔を歪める。
「勝者、持田」
「残念だったねシロさん」
「なぜ、おまえはっ」
持田は妙に落ち着き払って「俺はね」と目を伏せた。
再び目を開いた時、その目に火が宿っていた。
「中高の部活の朝練のあとに卓球部の朝練にまじって遊んでたんだよ!!」
「なっ!?」
「どこの馬の骨とも知れない男に、そうカンタンに紅葉は渡さない」
おまえのところのキャプテンだろうが。
そんな驚くところではないと思うが、雰囲気に呑まれ城西は雷に打たれたような衝撃をうけていた。
本当に、東京Vの心労が思いやられる。
俺はため息を一つ落とし、ベンチでうなだれていた椿の肩をトンと叩いた。
「くだらねえ。帰るぞ」
「オモシロそうなことやってんじゃん」
卓球場の入り口にいたのは
「監督」
達海さんはニッと笑った。
「景品は紅葉?」
【本館卓球場】チキチキ☆プロサッカー選手だらけの卓球選手権!監督もいるよ。
俺は頭痛を覚えた。
めんどくさいのがめんどくさい雰囲気でやってきてしまった。
持田から勝者の愉悦が立ち消え、仇敵を睨むように眼光が研ぎ澄まされる。
達海さんは城西が卓球台に残したラケットを手に取り、慣れた様子でグリップを手の中でくるくると回した。不意に握って回転をとめる。
嫌な予感がするからさっさと帰るか。
「村越、審判」
「・・・」
「ピッチの上では絶対服従」
「ここはピッチじゃねえだろ」
「これから勝負が始まるんならここがピッチだよ」
めんどくせえ。
「蓮、まだやっていたの。いい加減にしなさい。部屋に帰っ」
タイミング悪く景品までもが顔を出した。
景品は、達海さんの顔を見るなり言葉を止め、白い頬をみるみる赤く染めてわたわたと慌て出した。
「た、達海さん」
「よ、紅葉。勝ったらおまえくれんだって?」
「い、いえ、あの、これは、違うんですっ、蓮が勝手に」
たじたじになって否定する持田妹はあっというまに顔全体から耳、胸元までを真っ赤にした。うちの監督に誤解されたくないという一心が読取れる。このわかりやすい変化に椿は肩を落とすどころかあんぐりと顎を落とし、城西はよくわかっておらず、持田はメラメラとドス黒い炎を背に立ち上らせた。
ラケットを取った持田は、それをまっすぐに達海さんの首へ差し向けた。
「・・・達海さん、勝負だ」
「のぞむところだ、ガキンチョ」
持田vs達海
知っているか、持田。
俺たちの時代にはケータイなんてなかった。
パソコンもだ。
じゃあどうやって遊んでいたと思う?
「卓球だ!!」
スマッシュの快音が響いた。
「勝者、うちの監督」
達海さんの完封勝利だった。
「くそっ!くそがっ!」
持田はラケットを卓球台に叩きつけ、人目もはばからず悔しさをむき出しにした。
「どうしてあの年代はみんな卓球とボーリングとギターをかじってんだ!」
「うちの後藤はこんなもんじゃないゼ?」
これを聞くや、見果てぬいただきを垣間見た持田はついに床に崩れ落ちた。
「蓮っ」
持田妹は持田に駆け寄り、肩を落とした身体を抱き起こして寄り添った。
「それじゃあ、女はもらってくぜ」
達海さんはまるで時代劇の小悪党のように悪い顔をして悪いことを言い出した。
持田は持田妹の前に腕を出して連れていかせまいと抵抗の姿勢を見せる。鬼気迫る表情はまるで手負いの獣だ。
「やめろ、紅葉になにをする気だ」
「そうだな。手始めに浴衣にノーパンでツヤツヤの床の上にでも立」
「達海 不祥事 ダメ ゼッタイ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴという地鳴りを伴って後藤さんが出現し、達海さんを猫掴みして有無も言わさず連れ帰っていった。
持田ははっとして同じ顔を振り返る。
「紅葉」
「蓮・・・!」
双子はひしと抱き合って、それを見た城西は手のひらを口にあて感激して号泣していた。
俺は相変わらず顎を落としていた椿をひきずってその場を離脱し、
次の東京ダービーは絶対勝とう
と思った。
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