【新館ゲストルーム】持田妹の部屋
息をするように悪事を働こうとした双子は城西によって拘束され、一緒に散歩、とはいかなかった。
いろいろあってお腹も減ってきた紅葉は一旦部屋で食事をとることにした。
フロントの仲居さんは、食事は部屋に運んでくれると言っていた。
カードキーの番号で部屋を探し当て扉を引くと、ガチンと内側からロックされている。
ということは中に人がいるはずだ。同室の先輩だろう。もう寝ているのだろうか。
ベルを鳴らしてみた。
「先輩、中にいますか」
中でドシンバタンと音がした。
いるらしい。
紅葉がしばらく待っていると扉が小さく小さく開いた。
しかし人の姿は見えず、かわりに声だけが聞こえた。
「あ、あのね、紅葉ちゃん。ちょっとごめんなんだけど、あとしばらくしてからでいいかな。それまでロビーとか、まだ宴会場も入れると思うし」
ずいぶん慌てた様子である。中は電気もつけていなかった。一瞬暗闇から廊下の明かりで見えた先輩の肩は、素肌だった。
紅葉はワッと心の中で声をあげた。
「は、はい。すみません、わかりました。大丈夫です」
先輩は何度も謝って扉は閉じられた。
紅葉は足早にその場を去った。足元を見てずんずんと適当に廊下を進む。
中で男の人と一緒にいたのだ。
同じ病院の人だろうか。
それともヴィクトリーの。
ETUも泊まっているといっていたからもしかしたら、もしかしたら。
(・・・達海さんだったら、どうしよう)
とそこまで考えてどうして達海の名前が出てきたのか。
振り切るように走った。
少女のように熱くなった頬を冷やすために外に出て、石畳の下り坂を全速力で走った。
まだのぼせた余韻が残っていたのか、走っていると膝からカクンと力が抜けて転びそうになった。
ひとまず立ち止まり、はいた白いのぼった息の先、あたたかな光りを見た。。
ホテルの本館だ。
椿が言っていた。
ETUはホテル本館のほうにいる。
ゆっくりと動き出した足は本館へと向かった。
しかし、ホテル内を徘徊するうちに頭が冷めてきてなんてバカバカしい事をしているのかと思い至る。これではストーカーのようだ。
冷静になるとお腹が空いていることを思い出した。
ひとたび思い出すと急激にお腹の空き具合が加速する
腹に手をあててみる。
「迷子スか?」
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