【足湯】王の邂逅



宴会料理というのは好きではない。
酒鬼の有里が怖い。
それに後藤の雷も落ちた。

華やかな場を逃げて、達海は離れの足湯に足をつけていた。
浴衣の上にどてらを着てはいるものの、冬の山は寒い。
湯につけた足をくゆらせる。

ざり、ざりと一人分の足音を聞く。
誰かが足湯へ続く石階段を上ってきた。



持田であった。



目があったまま止まる。

持田は表情を変えないが、達海に差し向ける眼光は決して好意的ではない。
達海は首をかしげた。

「どっち?」
「どっちって?」
「そっちか」
「何の話すか」
「いんや」

達海は尻を横にずらしてスペースを作る。
新旧の王様が木のベンチに並んだ。

素足になり持田も足を湯につけて、ふいーと空へ息を吐いた。
達海の脚は静止している。

「話すのはじめてスね」
「そうだね」
「持田です」
「達海です」

達海は猫背で前かがみ気味に、持田は手を後ろについて胸をそらした。
挨拶は短く終わり、なぜいるのかは互いに尋ねない。性格ゆえであり、プライドも係る。
達海はじっと足をつけ、持田はつけた足をゆら、ゆらと揺らす。
紺の夜に緊張を知らない男たちが足湯に緊張の細い糸を張った。
外から見たら誰かが見つける緊張の糸を、彼らだけは見つけない。
意地でも見つけてやるもんか。



8分間沈黙が続いたとき、人間より物質のほうがしびれをきらして持田のケータイが震えだした。
持田はしばらく無視していた。
それをとるのが敗北のようで、気に入らない様子である。
しかしケータイは一旦やんだかと思うと、しつこくももう一度かかってきたので、

「・・・はい」

と低く応じた。
持田は眉根をひそめた。

「うん。は、なんで?シロさんいま一緒なの?なんであいつと一緒なの?は?・・・湯あたり?どこ」

達海はケータイを耳にあてる持田を見ない。ただし足の先をゆら、と揺らす。

「行く。手ェだしたらシロさんのずっこけオウンゴール集をごはん中に延々見させるからね」

持田が立ち上がった。
履物をつっかけてわき目も振らず散歩道へ続く階段へ差し掛かる。



「あいつ」



達海の声に持田が振り返った。
持田は「あいつ」の指すものになんとなく気づいていたし、達海も持田が気づいているように思っていた。どっち?と言い、言われた瞬間からだ。

「なんでオマエと同じ頭にしてるの」

持田は大きな目を見開いて、眼力で相手を殺す魔術でもかけるような表情をした。
しかし、ふっとまぶたが落ちる。
達海に背を向け階段を一段おりた。

「ちがう」

短い返答。

「俺がと同じ頭にしてる」
「・・・」
「はじめて会ったときあいつ髪の毛切られててだから俺が同じにしたくてその場ではさみで切った」
「・・・」
「達海さんに言っても仕方ないけど」

達海は彼から人間らしい言葉を聞くことを想像していなかった。

眉をあげ、きゅっと唇の端を持ち上げる。

「おまえ、フットボール以外やさしいのな」
「ハゲろじじい」



【新館露天風呂】酒を飲んでから風呂に入ると危ないから先に風呂に入りにきた<<  >>【新館ゲストルーム】城西の部屋