【本館露天風呂】王の戦い



「ウゲ」

「ん?なんでおまえこっちの風呂いんの」

朝6時、
本館露天風呂へ足を踏み入れた持田はあからさまに嫌な顔をした。
先客の達海は髪についた泡を洗い流していたところだった。

「いてて」

持田の方へ向けた目に泡がはいったらしく、目をこすって手早く泡を洗い落とした。
ここで引くのは敗北だ。持田は開きっぱなしになっていた脱衣所の扉を閉めて、露天風呂に入る決断をした。

「俺らのフロアは値段高いから、むこうの風呂もこっちの風呂も入っていい権利があんスよ」
「そう」

達海は洗い終えた髪を前から後ろへ手で強く押し付けるようにしぼる。
オールバックになった。
そして立ち上がる。
持田も数歩歩み出て達海と体面した。

「・・・」
「・・・」

仁王立ち、無言のにらみ合いの後、互いの視線は下へ下がった。



((・・・互角、か))



持田はシャワールームではばかりなくブラブラさせることで有名な男であり、達海もまたその種の男であった。

そのときである。
女湯の方でガララと脱衣所の扉が開く音がした。
達海の視線がふっと男女を固く隔てる竹素材の仕切りへと向いた。
咄嗟に持田の顔が(まずい)という顔をした、これを、達海は視線の端で見逃さなかった。
唇の端がきゅっと上がる。
持田はぎりっと歯をかんだ。
再び達海の視線と持田の視線が正面からぶつかる。

「蓮、そっちもひとり?」

「・・・ひとりだよ」

「よかったねえ。早起きは三文の徳」

「・・・うん」

一言も発さずただ悪そうに笑う達海は、踵を返して湯船へと向かった。
ザブンとわざと音を立てて湯につかる。

「ちゃんと体洗ったの?」

早すぎる入水音に仕切りの向こうから声がかかった。
達海は湯を隔てる竹柵へ音もなくすーっと泳いで近寄る。そして何食わぬ顔で竹柵の細い細い隙間にこれでもかというほど顔を近づけた。

ザバーン!バッシャーン!

高く遠く、水しぶきがあがった。
湯船に飛び込んだ持田が持っていた手桶のお湯を達海の後頭部に浴びせかけたのだった。
水も勢いによっては凶器となりうる。
達海は竹柵をへこませめり込んだ顔を、ぐぐっと手をつっぱって引っこ抜いた。
頭を抜くと、手は湯船へチャポン・・・と沈んだ。
手は、持田と同じ手桶を持ってゆっくりと水上に現れた。
お湯はなみなみいっぱい。

「蓮、今の音なに?転んだの?」
「足元が冷たかったからお湯ぶっかけただけ」
「そうなの?」
「うん。でもまだちょっと冷たいから、やるわ」



ザバーン!ズドーン!ビシャーン!ボカーン!







「ぷはあ!」

脱衣所を出た先にある休憩スペースで持田は勝利の牛乳を飲み干した、
その横のは、ベンチで仰向けで寝転ぶ達海にタオルでそよ風をおくっていた。
さらには自販機で買ったポカリのペットボトルをときおり達海の首や足首にあててやっている。
持田はこの献身的な様子が気に食わない。

「ほっときなよ」
「蓮がケンカしたんでしょう」

キっと強い視線を向けられ、持田はいっそう頑なになった。

「だって最初は達海さんが」
「うーん、うーん」
「達海さん、大丈夫ですか」
「くらくらするー・・・」

に無視をされ、持田の苛立ちはうなぎのぼりである。

「達海さん、本当にのぼせただけですか。お酒飲まれたりはしてませんか」
「酒は昨日飲んだけどもうさめてたよ」
「そうですか・・・では寝不足とか、疲労があったりしませんでしたか」
「ん?ああ・・・寝不足かあ。そいやそうかも」
「ちゃんと眠らないといけませんよ。医学的にも睡眠の効果というのは」
「3時にコンビニ行く癖ついたからね」
「・・・」
「最近ハズレばっかりだけど」

なんの話だろうか。
持田は首をかしげるが、の方は達海の熱が乗り移ったように見る見る赤くなり、それが最高潮に達した時

「え、えい!」

と突然に達海の背を指圧!

「あぁん!」

と喘がせ駆け去った。



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