【新館宴会場「鳳凰の間」】東京V新年会



時計は19時をまわった。
日本代表の顔がそこかしこにある東京ヴィクトリーの選手達をまえに、城西が乾杯の音頭をとった。

”若い者だけでゆっくり羽を伸ばせるように”と監督の平泉はじめ、クラブハウス首脳陣は参加しないのが彼らの慰安旅行の暗黙の慣例である。
制限事項といえば慰安旅行企画・運営の若い広報スタッフが「写真はこちらで撮りますので慰安旅行なうとかつぶやかないでくださいねー」と声かけをしている程度で、おおむねリラックスムードである。

「シロさん、おつかれです」
「ああ、堀。ありがとう」

後輩に酒をそそがれ、城西は快くこれをうけた。

「いつもは海外でしたけど、国内っていうのも結構いいですね。近いですし、酒も料理もうまいですし」
「そ、そうか。それはよかった。選んだ甲斐があったよ」

東京Vは金持ちだ。
慰安旅行といえば海外まで足を伸ばしていたものだが、アンケートで発露したチームメイトの率直過ぎる意見を鑑み、今年は国内の温泉どころのホテル新館を半分貸切にするプランへと変更した。新館のもう半分には別の団体が貸切にしている。
この別の団体というのが隅田川総合病院の職員旅行御一行だ。

城西の心に後ろめたい影が差す。
皆が望んだ「女性との出会い」という要望を満たそうと思いこのプランを選んだ。しかしそこに行き先選考委員のひとりであるキャプテンのごく個人的な願望が一切なかったといえば嘘になる。



城西さん、宿なんですけど同じ日に隅田川総合病院の団体さんがいるらしくて、ここでいいですかね?ナースいそうですし。



スタッフのこの言葉がどれほど奇跡的に城西の体へ響いたことか。
城西は注がれた酒に意中の人のまぼろしを映した。

(このホテルにいるかもしれないのだ。同じ建物に、さんが・・・)

とはいえ、と城西は興奮しかけた自分の心を冷静に諌めた。
今回の慰安旅行にはめずらしく持田が参加している。
アンケートにあれほどはっきりと不参加の意思を示していたというのに、前日になって急に暇だから行くと城西に電話してきたのだ。
おそらくと二人で雑談でもしている間にヴィクトリーとの勤務先の病院が同じ日に同じホテルに行くことを知って、参加することにしたのだろう。急な変更で部屋が確保できず、鉄壁であり鉄槍のお兄ちゃんは息をするように自然に城西の同室に配置された。

(クラブを私情のダシに使ったバチがあたったのだ)

「ところで、おもての看板見たら、ここナース御一行がいるんすよね・・・俺は別にナースとかどうでもいいですけど、シロさんもう見ましたか?」

堀が妙にそわそわと視線を向けた先、城西が泣いていた。
城西は目頭をおさえ、他方の手で堀の肩を強く叩いた。

「いいんだ堀。俺のことは捨て置け・・・だがせめて、せめておまえたちは幸せになってくれ!」



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