【新館ゲストルーム】城西の部屋の健康優良児



このホテルの新館の高層階はエグゼクティブフロアと呼ばれ、宿泊客にラグジュアリーな時間と空間を提供するために様々な工夫がほどこされている。エグゼクティブフロア専用のランジやコンシェルジュカウンターが用意されているほか、各ゲストルームにはその部屋専用の露天風呂が備え付けられている。名湯で有名なこの温泉街の風情を感じるためであろう、エグゼクティブフロアであってもベッドはなく布団を敷く和室タイプで統一している点にはホテルの並々ならぬこだわりを感じずにおれない。さらに別の視点から考えれば効率もいい。各部屋は布団の置き方によってシングル、ダブル、ツイン、はては布団さえ増やせばトリプルにさえなり得る。すなわち顧客が希望する部屋タイプが満室だから泣く泣く断る、という問題がシンプルに解消されるのである。無駄の無い見事な采配である。

と、城西は天井の豆電球を見つめながら考えていた。

なぜこのようにぐずぐずと考えているかというと、双子が城西の両脇に寝ているからだ。
が寝返りを打ってこちらを向いた。
身体が硬直し
ゴックン
と生唾を飲み込む。

最初からこんなポジショニングだったわけではない。
、持田、城西、という並びだった。
ホテル側が何を間違ったか、もしくは期待したのか、城西と持田の部屋に用意されていたのはダブルサイズの寝具1組だった。
「取り替えてもらうおう」と切り出した城西に持田はこう言った。

「えー、めんどくさいよ。いいじゃんシロさんこっち右サイドで、俺ら左サイド」

手で布団に線を引いた。
持田がいる安心感からか、まで「私もそれでかまいません」と言い出す始末だ。

「いえ、ですがやはりその」

もし万が一なにかの間違いがあったり、朝の男子の生理現象のようなものが起きてしまったりした場合、主に城西の場合だけ取り返しがつかないので。
などともいる場で口に出せるはずもない。
わたわたと言葉にならぬ思いを持田に向かってジェスチャーする城西の目の前で、持田は大きなあくびをした。つられてもあくびする。

「ふぁあ・・・もーうっさいなあ。俺らもう眠ィから寝るわ」

目をこする仕草は同時だった。
二人は仲良く布団の左サイドに寝転がり、城西の動揺を差し置いて寝入ってしまった。
仕方なく、城西は右サイドへおさまった。

だのに
夜中に
持田が・・・

「おしっこ」

と寝言を言いながらのそのそ布団を出て行き、城西を踏んで戻ってきて、愚かにも城西の右サイドにポジションを変えたのである。
以来、、城西、持田という配置にかわって城西は眠れぬ夜をすごしている。
マッサージのためにつかったオイルのせいで、が少しでも動くたびかぐわしい香りが鼻腔をくすぐる。
ついでに自分が動いても持田が動いても同じにおいがする。
三人で同じオイルをつかった功罪である。
城西はきつく目を閉じた。
心頭滅却すれば火もまたや、やわらかい!
あたたかでやわらかな肌が城西の腕に接していた。



(絶対に眠れない・・・!)



と思った三分後にはスヤスヤ眠ってしまう哀しき健康優良児城西であった。
城西は、一度眠ると踏もうが蹴ろうが定めた時間まで決して起きない男である。



そんな男が、早朝に双子が声も交わさず部屋を出たことなどどうして気づくことができるだろう。



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