「紅葉さんってお医者さんなのか」
遠征先のホテルでの夜のことだ。露天風呂で鉢合わせたので城西は尋ねてみた。
同じ部屋でなんのはばかりもなく電話されてその会話の内容を聞くなと言うほうが難しい。
湯船の外には若手もいるが、流れ出すお湯の音で向こうの声も聞こえなければこちらの声も聞こえないだろう。
「・・・」
持田はほぼ閉じるくらいまでまぶたを落とした目をこちらへ向けた。
素人が見れば怒っているように見えて怖気づき口をつぐむだろう。しかしキャンプや遠征の折には常に持田処理班として同室にされてきた城西にしてみれば、持田はただ温泉の気持ちよさにひたっているだけだと推し量れた。
「・・・悪い?」
「悪いはずがない。すごいじゃないか。才女だ」
「まあね」
「なんの話してるんですか?」
「城西さんの彼女さんの話スか?」
城西の予想を超えて女性のにおいに耳聡かった若手たちがザブザブと湯を掻き分けやってきた。
持田は怖いが城西がいれば噛み付かれることはないと踏んでの接近だ。
途端に持田がこちらに目をあわさなくなり、湯に口まで沈めた。持田は不機嫌に転じたのである。城西はこれを視界の端に認め
「いや、なんでもない」
「えー教えてくださいよぉ」
持田の変化に気づかない若手は果敢にもまださぐりをいれてくる。
「キャプテーン」
「どんな人かだけでも」
「かわいい系ですか?」
持田のプライベートな事だ。話すわけにはいかない。それにチームメイトであればなおのこと、こっちの持田を恐れるあまりその反動で持田の双子が異常にかわいく映るだろう。城西がそうだったように。
改めて、言葉にしない矜持を胸に縫いとめた。
「すまないが言うことはできない。おまえたちには刺激が強すぎる」
「「「ええ!?そんな爆乳なんですか!?」」」
水の中で持田が舌打ちしたのに気づかない城西は自らの手の記憶を呼び戻し、拳をぐっと握ってキリリとした表情を若手へ向けた。
「女性を胸の大きさで評価してはいけない」
「シロさんいまの言っとくから」
「持田、焼肉でもおごろうか」
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