空条承太郎は、今度は岸辺露伴を小脇に抱えて最上階のバーから部屋へ運ぶはめになった。
深夜だったので誰ともすれ違わなかったことは幸いしたが、バーの従業員にはなにかしら勘違いをされたかもしれない。
とは違い、大人の男ひとり運ぶのはさすがに重かった。
ベッドに放り投げ、こっちには毛布をかけなおすなんて親切はしない。しびれた腕をまわす。
承太郎が強い酒をどれだけ飲もうと気にせず自分のペースで飲んでいたから心配していなかったが、途中、仗助から承太郎に「さん元気ですか」などとくだらないメールが届いたことでペースを乱し、悪酔いし始めた。ユルくなった呂律で何度か「仗助」と呼ばれ、罵声を浴びせられもした。
軽くシャワーを浴び、歯を磨いて、承太郎が床についたのは深夜2時45分



「今日の検査とやらで何かわかりましたか」



消灯した室内で、岸辺露伴の声がした。
寝言にしてははっきりしている。
承太郎は次の寝言を待った。
「なにもわからなかったんでしょう」
「…」
「“解剖でもしてみないことには”」
それは、SPW財団超自然現象研究部門の首席研究員が今日、承太郎に告げた言葉である。
「…いつ読んだ」
「ここまで運んでいただいた時に」
スタンドを使われたという記憶も一緒に書き換えられれば、気づくことはできない。やっかいなスタンドだ。
「読んだお詫びに、ぼくの仮説をひとつおはなししましょうか」
呂律はしっかりまわっている。
すっかり騙されたというわけだ。本当に、やっかいなスタンド“使い”だ。
「あなたがたはあいつが何でできているのか、どんな恐ろしい人殺し能力を隠しているのか熱心に調べているようですけど、ぼくはあいつにはなんの力もないと思っていますよ。ただし、あれを作り出したスタンドのほうは、とてつもなく強い」

岸辺露伴は、に竹取物語が記されている、と今になってはじめて語った。

「最初は不思議に思いましたけど、あいつが紙と塗料、授業用のプリントだという話を聞いて、もともとプリントに印字されていた文字が見えているだけなのだと納得しました。漫画の背景みたいなものなんだってね」
明かりのない部屋で顔色のない露伴の声が続く。
「でも、それはおかしい」
「…」
「ヘブンズ・ドアーが本にして読むのは“その人間が記憶しているウソいつわりのない体験”…さて、をどうみるか」
もったいぶった話し方に承太郎に少しずつ苛立ちが重なる。
「あの竹取物語は背景じゃあなく、に”起こると決まっている”できごとかもしれないということですよ」
だとしてもひどく雑ですがね、と加えた。
「どういうことだ」
「赤ん坊が竹から見つかるところが、人形サイズの大人になっているし、大きくなるまでに、み月かかるはずが数日に短縮されている。要所要所だけなんとなく共通点を持っている、という程度ですけど、五人の求婚者もそう」

仏の御石の鉢は、億泰が工芸で作った壺になり下がった。
康一が勧めた「タマ」の絵は、が洗濯機に夢中になっている間に調べに行ったところ作者は「蓬莱」とあった。蓬莱の珠の枝(ほうらいのたまのえ)のダジャレだ。
噴上が贈ろうとした「ファイヤラットのフェイクファー」は火鼠の皮衣、
竜の首の珠は、仗助が射的であてた中途半端な巻数のドラゴンボール、なんて、こじつけが過ぎて最後まで露伴の推理を混乱させたほどだ。

「だだ、にはどれも渡らなかった」
物語のとおりに
「くだらねえ」
「ぼくもそう思いますよ。くだらないスタンド攻撃だ」



「古文の教師のスタンドは、まわりの人間たちを巻き込んでこの世界で“竹取物語”を遂行する能力だったのではありませんか」



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