は知っていた。
いつから知っていたのか問いつめる前に屋根裏部屋に逃げ込んだ。
ふさぐ板もない屋根裏の正方形は、一階から見上げた露伴の侵入を阻むのには十分な暗さだった。
露伴がシャワーを浴びて二階の寝室へあがるためにホールに戻ってきても、まだ屋根裏は暗いままだった。音をたてながら二階へ階段を上る。存在を知れと、ペタペタと素足で向かい、正方形の手前で立ち止まる。
「汗をかいたんだから、ベッドに入る前に風呂に入れよ」
返事はない。
動きもない。
返事と動きをたいして期待していなかった露伴は、それだけ言って寝室に引っ込んだ。

シモンズのセミダブルに腰掛けた時、長い棒を持ってきて天井をつついて脅かしてやればよかったと、そうすべきだったと思った。それが岸辺露伴だ。今からでも

小さな足音が細かな音を立てて階段を降りる音がした。

機を逃し、露伴は背からベッドに倒れこむように横たわった。
「…」
どこまで知っている
天井に問う。
かぐや姫は竹取の翁に蝶よ花よと育てられ、美しく成長し、並み居る求婚者を返り討ちにして、帝と相思相愛になるはずだ。しかし姫は月に帰る。
主を失ってなおひとり歩きするスタンド能力は、露伴含め複数の人間の心をいじくりながら今も物語を続けている。でなければ、岸辺露伴ともあろう者が他人を家に住まわせるという選択をするはずがない。
思い返せ。

このベッドを貸した
おもちゃを買ってやった
絵を描いてやって喜ばせ
家具を買ってやって
改札にひっかかったのを助けて
肩にもたれかかる頭を許した。
言い寄る男を追い払い、
大混雑の祭りの真ん中まで助けに行って、さんざん心配して。

「子煩悩の父親か、初孫に対するじじいのやりくちだな」
岸辺露伴ではありえない行動の数々だったのにもかかわらず、異常性にすら気づかなかった。
気づかせない、目に見えない力が働いているのだ。

「あいつも操られている側だったか」

どこで気づいたのだろう。
横向きになって目を閉じる。
知っていても不思議はない。
あいつの歩むべき体験にそう書いてあるのだから。
人が食べ眠り交わることを知ってゆくように、音もなく知りゆくのだ。
抗うことはできない。

露伴も
仗助も



「認めない」



瞳に火がかかる。

「この露伴の頭の中をいじくったことをぼくは絶対に許さない。それはぼくが全身全霊で考え描いたストーリーをキャラクターを、セリフを、他人が制御したかもしれないということだからだ。“ぼくの漫画”を奪う力はどんな手を使ってでも相手が誰であろうとも」



ぶっ潰してやる



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