もう夕方だが、デートへ行かないか。
「夕方からカメユースーパーの特売で牛乳がおひとり様一本の大安売りだから来い」
「…お供します」

努めて笑って見せていた顔が粛々とうなずいた。
なるべく長く二人でいられるように、ゆっくり歩いて行こう
「歩いていくぞ」
「はい、露伴様」
「ケータイは置いて行け」
仗助から君に電話が来るのが嫌だから

ひぐらしが騒ぎ立てるはずの夏の夕暮れはどうしてか静かで生ぬるい。肌触りの重い風がむき出しの腕にねっとりもたれかかっては離れてゆく。大きな風が露伴の前から吹くと、うしろでの長い髪が揺れたのだろうと想像する。ワンピースの裾も揺れたろう。
二人は、一馬身以上離れて歩いた。
はあちらこちらに興味を持つ、ふりをして、すれ違った青葉を指でなぞる。時々思い出したように早足して距離をつめた。
じき、また離れる。
会話はなく、18時を過ぎて今からの特売などあるはずがないスーパーへの道は平らかに続いた。西日がまぶしくて露伴は顔をしかめた。

は初めて来たスーパーでなにもかもが珍しい、ふりをして、二人で会話する必要性が掻き消えた。
安くもなんともない牛乳を一本、酒のつまみのアーモンド一袋、食パン一斤、お会計620円、は「持ちます」と言い“デート”が始まってからそれが最初の言葉だった。
君は女の子なんだ、ぼくが持つよ
「勝手にしろ」



背に容赦ないオレンジ色の閃光を浴びる帰り道は、買い物袋をさげたが先行した。
車道に飛び出して車に轢かれないようにだけ気をつける。
「こんちは」
風をつれて仗助が露伴を追い越した。
さん」
「仗助様、おかえりなさい」
「た、ただいま。今日はむし暑いッスね、持つよ、露伴せんせとお買いものですか」
の髪とワンピースの裾が大きくひろがる。
「牛乳を買いに」
「そっか。はは、風強い。知ってますか、今日夜台風が来るの」

露伴の足はふと止まり、アスファルトにおちる自分の影を見た。

これが岸辺露伴の姿か



<<  >>