9月19日 17時16分、杜王町の空に巨大な満月が現れた。



22時を過ぎたころ、岸辺露伴邸はスピードワゴン財団から派遣された様々な国籍の軍人達に取り囲まれていた。引っ越しトラックに偽装した特殊車両は8台並び、なかでは超自然部門の科学者たちがトンボ一匹でも夜空を横切ろうものならレーザーで打ち落とす気概で、モニタを見つめている。
本当はそうではない。
財団から寄越された連中のほとんどは、これからスタンドが起こす超常現象のデータを1bitもこぼさず採り切ろうと、頭の中はそれだけだ。
制服のまま集まった仗助たちだけは、月さえ殴り、くびり、つぶし、けずり削がんと睨みあげていた。
ジョセフ・ジョースターがあらわした“黄金の精神”をその瞳に宿して。
芝生の庭に4体のスタンドを並べ、自分のスター・プラチナも入れれば、5体である。

岸辺露伴とはただ二人、家の中にいた。












屋根裏含め窓という窓を塞ぎ、扉という扉に鍵をかけ、二人は階段の踊り場に腰かけていた。
「露伴様、どうか聞いてください」
露伴の胸の中でが言った
「羽衣がこの肩にかかれば、わたくしはこちらの世界であったできごとをすべて忘れるでしょう。誰も聞いていなくても、誰かが聞いていても、ところかまわずひとりでに竹取物語の言葉をこの声でなぞるでしょう。ひどく滑稽に」
「ぼくのヘブンズ・ドアーのほうが強い。絶対に大丈夫だ」
には向こうに連れて行かせないためのあらゆる言葉を書きつけた。
しかし、竹取物語のおわり「その煙、いまだ雲の中へ立ち上るとぞ言ひ伝へたる。」の文字の後へはどうやってもただの一文字も書き加えることはできなかった。
「あなた様ならご存知のはずです。物語の持つ力を。これはすでに綴られた物語です。消えない文字で書かれたひとつの完結した物語なのです」
「じゃあぼくも言う。君は知らないだろうがな、物語は勝手に動き出すことがあるんだ、キャラクターを動かしていると、あるとき突然そいつが考えていたプロットと違う行動をしだすんだ。そうしたいと、自分ならこうすると、登場人物が動くんだ。ぼくの手はただそれを描くしもべになるときがあるんだ。ぼくの才能を超えて、そいつらが動くんだぞ。素晴らしい物語ってのはそういう時に生まれる」

「願ってあらがえ。ぼくのそばにいたいって思えよ」

「…なんとたやすいことを仰せか」

「ヘブンズ・ドアーで書かなくても方法はある。君が生きれば物語は続くんだ」






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