のぼりゆく鋭い三日月
夜空にサソリの黒影、ふわふわと流れて行く。
寝室の窓から見たものは(不思議な雲だ)と思ったきり、あくびをして眠ってしまう、そんな刻限。

「よーうバカ殿ォ」

月明かりさす大きな窓に腰掛けてお邪魔します。

「ジュダル・・・またおまえか」

シンドバッドはいやな顔をして、深くため息をついた。
お互いはじめてのことではない。空でも覆わない限り、魔法道具と浮遊魔法を操るジュダルの侵入を阻むことはできないのだ。
シンドバッドは金属器を身に着けているがいますぐに戦う意思はないらしかった。
この場で戦っては王宮が吹っ飛ぶからだ。なんとかジュダルを穏便に追い返すを考えているのだろう。
いつまでもつか、ジュダルはうずく心をおさえる。

「なんの用だ」
「おまえさあ、女の趣味悪いんだな」

ジュダルは短い魔法の杖を手の中でもてあそんだ。
なんのことかわからないといった様子のシンドバッドを見て、次の言葉を言うのが楽しみになった。
唇は思わず三日月の形で笑う。

「ああいうバランスの悪いのが好みなのかよ」

気づけ。
これは魔法の杖ではない。

「コレなーんだ?」

ケツァル鳥の尾羽でできた、濃緑の羽ペン

「アハハ!じゃあクイズな!俺はあの女にイタズ」



ジュダルの顔は石の窓に叩きつけられた。
砕けた壁の破片がばらはらと床に落ちる。
なにが起こった。
いつの間に距離をつめられた。
ジュダルは自分の骨が軋む音をきいた。

になにかしたのか」

豹変であった。
シンドバッドの顔は半ばまで魔装に侵食されている。
人間と、人ならざる二つの声音が同時に響いた。

「二度とに関わるな。名を口にすることも許さん」

一言も、一指も抗うことができないままジュダルの体は宙空へ投げ落とされた。



ノックもなしに叩き割って入った扉の向こう、は無傷だった。
掻き抱いた薄い背に「バカ」と書かれた紙が貼り付けられていた。
わけがわからない様子のはわけもわからないままに、肩で息するシンドバッドを撫ぜてなだめた。






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