爽快な朝は、ジャーファルに手ぬぐいで顔を引っぱたかれて目が覚めた。
「いつまで寝ている気ですか。もうすぐ朝議ですよ。しかもまた素っ裸で。いい加減寝ている間に寝巻きを脱ぎ捨てる癖をどうにかなさってください」
「・・・」
俺は寝ぼけたまま、ベッドの横を見た。
いない。
夢?
けれど俺はマッパで、シーツは乱れていた。
下半身に奇跡的にシーツがかかっていたからジャーファルには気づかれなかったものの、シーツの下であれがカピカピになっているのがわかる。終わった瞬間寝た俺も悪いけど、なにも後処理してくれないで行っちゃったのか。
複雑な気持ちだ。それにしても
「・・・すげー盛り上がった」
「?何の話です?」
「夢の話。朝議の前に水を浴びたいから用意を頼む」
「わかりました。お疲れなのもわかりますが、しばらくはご辛抱ねがいます」
「おう」
俺はいつものように笑って、ジャーファルは胸をなでおろして出て行った。
それにしても、
(シェハラザードの様子がおかしかった)
はたして今日会う時間を用意できるだろうか。
***
事の後、様子のおかしいシェハラザードを最初に見つけたのはシンドバッドでもジャーファルでもなく、深夜の廊下をいくマスルールであった。
シャルルカンが主催した「マスルールおかえりなさいの会」で悪酔いしたシャルルカンを寝床に運んでいると、その途中で背中にネゲロされたので、風呂を使わせてもらった。その帰り道のことだった。
紫獅塔からふらふらとやってくる音を聞き、立ち止まった。
においでシンドバッドとわかった。しかし“すえた臭い”が強い。これは“した後”だと学習している。
こんな夜中に、した後に、ひとりでどこへ行くのだろうか。
間違えた。
やってきたのはマスルールがジャーファルにならって「シェハラザード様」と呼ぶ女性だった。
はじめて対面したときにはシンドバッドの奥様だと思って「おきさきさま」と呼んでしまった。
足元がふらふらしている。具合が悪そうだ。
「大丈夫ですか」
立ち止まっていたマスルールを王宮の柱とでも思っていたのか、シェハラザードは不意をつかれた表情で上向いた。
マスルールは顔に出さずぎょっとした。
服の着方がゆるい
シンさんのにおい
すえたにおい
泣いてる
髪が乱れている
足ふらふら
はじき出されたマスルールの答えは
「(うちの主が)すみません」
シェハラザードははたと長いまつげをしばたたいた。
「ひさしぶりだったからだと思います。たぶん」
言葉を端折ったため、シェハラザードは理解に至らずくびをかしげた。
いや、間があっていまようやく「ああ」と理解の表情をした。
「ひさしぶりですね、マスルール。おかえりなさい」
と思いきや勘違いされていた。
「・・・おひさしぶりです」
勘違いにノった。
「この時間まであなたが起きているということは、またシャルルカン?」
「はい」
「あなたが戻ってきて嬉しかったのね。むこうでは大変だったと聞いています。今夜はゆっくり体をやすめて。おやすみなさい」
「送ります」
見かけたらひとりで夜道を歩かせるなと、シンドバッドの言いつけだ。
シェハラザードはくすりと笑う。けれど何か違和感がある。
「ありがとう。でもご存知のとおりすぐそこ。マスルール、よい夜を」
お別れの手がふられ、ひっかかる糸が向こうからぷつりと斬られた。
事の後はふつう他人には見られたくないものだろう。
「・・・よい夜を」
背を見送って、気にかかっていたものの正体がよぎった。
泣いていたのはどうして
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