無人の玉座の間に光がふりそそいでいる。
玉座を見上げて踏み出すと、カツン、カツンと石と靴が清廉な音を生んだ。
一段あがり、二段あがる。
玉座の前に立ったとき、不意に玉座の裏になにかある気がした。
魔物とか精霊とかオバケではなくて、懐かしい道を歩いた時にあの坂の上にはあのお屋敷があると覚えているような感覚だ。
そう、そんなかんじで、玉座の裏には・・・



なんだっけ?



覗き込んだ。
落ち葉が溜まっている。
ああ
前を向けば川があり、石碑から後ろへこっそり顔を出せば、木立の並ぶむこう、大きなお屋敷の屋根が見える。
落ち葉がたまる土に腰をおろした。
金属器がガチャリと音をたてる。
なれた木のにおい、落ち葉のにおいがする。
石碑に背をあずけた。

そうするとほら、足音、走ってくる。

「やあ」
「おかえりなさい、シンドバッド」

がやってきた。
よかった。

「今度はどんな冒険をしてきたの?」

は俺の横に座って、不思議そうに首をかしげた。

「シンドバッド、なにをぼうっとしているの?」
「え・・・・・・あ、人喰い巨人の島のはなし、したっけ?」
「人喰い」

は聞いただけでゾッとして眉を寄せた。
俺はとっておき、人喰い巨人の島に漂着したときの話を聞かせることにした。
はいちいち驚いた。恐ろしい場面がせまってくるとワクワクとビビっているのが入り混じって肩がもちあがっていく。
船長が食べられたあたりでは両耳を手で覆って「ストップ!」と涙を浮かべる。
俺はそれがおかしくて耳を覆っても聞こえるような大声を出した。
がいっそう強く両手を耳に押しあてて、本気で泣きそうな気配があったので、そこからは口パクで、怖いシーンをしゃべっているふりをした。
口パクが途中でバレては笑いながら怒った。
俺は足をバタつかせてそれをからかう。
ひとしきり笑いの余韻をひきずりながら話し終えると

「すごいっ、シンドバッドは巨人をひとり倒したのね」
「余裕だよ」

ほんとは嘘、あの時は死ぬかとおもった。
けれどの輝く羨望の瞳をみたら、俺は得意になって立ち上がる。

「本当はね、三匹とも全部一対一なら勝っていたさ。でもあいつら俺相手にいっぺんにかかってきたからやりそこねたんだ」

身振り手振りをつけて話す俺の背に君の声がかかる。

「ねえシンドバッド」

同時に、クイと服のすそがひかれた。
ボタと音がした。
振り返る

「助手にして」

俺のすそをつかんだまま、笑うの左腕がもげてい



目がひらいた。
月明かりが窓の形に四角く差し込んでいる。
一人きりで、ここはどこかのベッドの上で、玉座の裏はあの石碑で、俺は、の腕を・・・腕が・・・

「・・・」

玉座の裏が、石碑?

あれ

・・・ああ。

俺いくつだ。28だ。アホだ・・・

全部夢だとようやく気づいて、ほっとしたような、あきれるような心地でまぶたを閉じた。
頬骨がくすぐったくなって、目のはしにたまっていた涙がはしったことをしった。
かわいた指の腹でごしごしこすって消滅させる。

あおむけになり、枕を顔に落っことして静止してみる。

「・・・」
「・・・」
「・・・」

心臓、はやい。
体をおこすと、顔に乗っていた枕が地味な音をたてて落っこちた。



「陛下」
「いかがなさいました」

真夜中に主の部屋の扉が開き、控えていた番の二人は目を丸くした。
彼らの動揺を手のひらでピタリと制す。

「護衛はいらない」
「し、しかし」
「夜這い」

王様が卑猥な指サインを作ると、衛兵たちはグッドラックと親指をたてた。






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