闇に引きずり込まれた。
細く汚い路地を口を覆われたまま引き摺られ、壁に叩きつけられた。
背をぶつけ息が吸えない。
間をおかず前襟と口を掴まれ、後頭部がゴリゴリと音を立てて石壁に擦り付けられる。
高い火柱が夜を裂く。
路地の入り口をとおる人が途切れた瞬間だけ色が差す。
「やっぱりそうだァ」
闇が明滅する。
「覚えているかァ?」
一瞬映った。
異常に突出した目が黄土色に混濁している。
ボロボロの髪と服
やせこけて
悪臭をはなち
ひずんだ形で哂う口には歯がほとんどなかった。
こんな男に見覚えはない。
右手は男を押し戻そうともがく。
すると肌が触れる寸前まで男の顔面が寄った。
押さえつけられながらも反射的に顔をそむけた、その耳に、
「シェハラザード“お嬢さま”」
目がひらく。
シェハラザードの眼球は男のほうへゆっくりと動いた。
抗っていた右手が急に動かなくなる。
太鼓の音が徐々に速まった。
宴のおわりが近づいている。
火柱がこれまででいちばん高くのぼる。
男の目と口が薄い弧をかいた。
「覚えていてくれてうれしいなァ」
脳裏に焼きついている。
シェハラザードの口から男の手がはなれた。
「じゃあカタチは覚えているかなァ?」
叫び声のかわりに歯がガチと鳴った。
「あんなに何度もしてやったもんなァ?」
「おぼえているかためそうなァ?」
「試してやろうなァ」
「しゃぶれ」
石壁に寄って必死に顔をそむける。
シェハラザードの前髪をひっ掴んで向かせ、顎を締め付け口腔をこじ開けられる。
「ひどいじゃァねえかァ?ひどいじゃァねえかァ!そんなにイヤがるなよおゥう!なに、俺が遊びたい時にちょっとの金と体をよこせばそれでいい。そうすればおまえはずうっと先生だよゥ?シェハラザードお嬢様ァ」
「だが、おれのことを一言でも言ってみろ」
この国の連中にてめェがどんなカッコで俺たちに股をおっぴろげていたかおしえてやる
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