俺は一度ならず二度までも迷宮を攻略した。
迷宮から持ち帰った財宝で南の島にの屋敷よりも広い屋敷を買い、使用人もたくさん雇った。
大きな船を買って、一番立派な衣装に身を包んでのところへ戻った。
いまの俺なら、と結婚したってなんの文句も言われないくらいに金持ちだ。
い、いや、待てよ。
結婚するにはまだお互い子供すぎる。
迷宮攻略に年齢は関係ないと俺が証明したけれど、恋愛はそうもいかない。
じゃあ
そう
まずは君が好きだよと告白しよう。
も俺を好きみたいだし、きっとうまくいく
なんたって、俺は迷宮を二つも攻略した男・シンドバッドなのだから!







人間が石碑にくくりつけられていた。
髪の毛が3cmくらい生えた汚いぼうず頭だが骨格で女とわかる。
シンドバッドは首をかしげた。

いまから半年前、シンドバッドがのもとを離れてから六日後のことだ。
悪政にたえかねた民衆が革命を起こした。
領主様は手につかめるだけの宝石を持ち、逃げ去ったという。

「・・・このひとは」

シンドバッドは必死に知らないふりをして、横でもみ手をするあたらしい領主にたずねた。王子のような格好をしたこの少年が、貧しいシンドバッドだなんて町の誰も気づかない。

「前の領主の娘ですよ、おぼっちゃん」
「・・・」
「ここに隠れていたところを見つけましてね、逃げた連中をおびきよせるために繋いでおいたんです。誰も釣れやしませんでしたが、男たちのよい楽しみにはなりました」
「・・・死んで?」
「いやあ、どうでしょうな。なかには長く楽しもうと食い物を持ってきていた連中もいたようですから。何かわずらっているとわかってからここ数日はさすがに誰も来てないようですがね」

やせ細り、ぐったりとして動かない。
ひどく汚れ、悪臭をはなっている。
新しい領主は足で””をひっくり返した。
唇がほんのわずかに動いた。
領主は「しぶとい」と舌打ちする。

「あ、おぼっちゃんもしや!さすがですな。お目が高い!そう、洗えばたいそううつくしい娘です。ちょいとキズモノですので、お安くしますよ」

左腕がなかった。





「助手にして」

「おねがい」
















































俺はを買った。
丈夫な靴くらいの値段だった。






***



船に乗せ、迷宮の財宝をもとでに作った屋敷のベッドにを運ばせ、お医者を雇った。
お医者が言う。

「命は助かりました。ですが、もう子供は産めないでしょう」

それが重大なことなのかどうか、よくわからなかった。
そんなことより、

の左腕がなくなったことや
老人のようにやせ細っていることや
目をあけないことや
俺が楽しくて仕方がない冒険をしてきらめく財宝をかかげて、贅沢している間にがひどい目にあっていたことや
俺があの日の左手を
「助手にして」と

もしかしたらなにか恐ろしい気配を察知していて
だから俺に助けを
もし
そうだとしたら
そうでなくても
そうだとしたら
おれは
おれは

椅子をはじいて立ち上がり、のためにしつらえた部屋を出た。
早足で大理石の廊下をズンズン進んでいると、使用人の男が見えた。

「船を出す。食糧をつめ」
「シンドバッド様、どちらへ」
「冒険に決まっている」
「え、そんな急に。さきほどのお嬢様は」
「俺が不在のあいだ、この屋敷の主人と思え。一切の不自由がないように」



俺は「やあ」「おかえりなさい、シンドバッド」のやりとりをしないまま、次の冒険に出た。
ワクワクする冒険だ。
ドキドキして興奮して、頭が冒険のこと以外考えられなくなるような大冒険だ。



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