0118 : クロト
またクリーンルームでオードリーと会った。
自動ドアが開いて入ってきたオードリーがボクを見つけるなり、目をパチっとひらいて口をあけた。
ボクは硬いソファーで膝をかかえて座ってた。
「クロト」
「おーオードリーだー」
「覚えてくれたのね」
もう完全に覚えた。
何回だって言える。
見てろ
「オードリーオードリーオードリーオードリーオードリーオードリー」
ほら、何度でも言える。
オードリーはきょとんとしてから首をかしげた。
びっくりさせてやれたのが面白い。
びっくりしたのに動きがのろのろしてて面白い。
びっくりしてそのままストンと固いソファーに腰をおろしたのが面白い。
ボクは抱えた膝のなかで笑ってやった。
「呼んだだけだヴァーカ!」
ボクが走っていってオードリーの横に座ると、オードリーはこっちをじっと見てきた。
座った硬いソファーが冷たいのをわすれた。
ボクもじっと見ていた。
目がオルガとかシャニとかと全然違う。顔の形とか、髪とかも、全然。
オードリーは息を吸った・・・とめた
「ん?」
「クロトクロトクロトクロトクロトクロト!」
「・・・ビビっ た。なんだよ!」
「呼んだだけ」
「んかすっげムカつく!」
ムカついたのは本当だ。
白い壁もこれからある検査も冷たい椅子も嫌いだ。
白い服のオッサンも全部ムカつく。
別にムカつかなかないのはオードリーと、オードリーがボクの名前をたくさん言えるくらい覚えていたことぐらいだ。
それから白い服のオッサンがボクの番号を呼ぶまで、
趣味とか
昨日の実験が成功だったこととか
このソファーが冷たいとか
おまえの服はピンクでボクのは緑色だとか
今日の実験もめんどくさいからいやだとか、話した。
オードリーはうん、うんって聞いてる。
おとといあったことを話そうとしたら一瞬思い出せなくてようやくうっすら思い出したところで
「0118、中へ」
今日ボクの番号を呼んだ白い服のオッサンは特に嫌いだ。
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