0110 : オルガ
オードリーを見つけて俺はようやく息をした。
柄にもなく慌てて焦って早足だったのがいまさら恥ずかしくなって
クリーンルームの中はゆっくり歩いた。
オードリーの向かいの冷たい椅子に座ると「どうかしたの」と尋ねてきた。
「どうもしねえよ」
「髪の毛乱れてる」
「どうもしない。だいたいおまえが!」
俺はそこまで言って言葉を止めた。あけっぱなしになった口を閉じて敗北感を感じた。
俺が勝手に夢を見て勝手に心配して勝手に走っただけでオードリーは悪くない。
とりあえず前髪を手で直した。
「私、なにか悪いことをしてしまった」
「別に」
「でもオルガは怒っているわ」
「オードリーが気にすることじゃないし怒ってないしむしろすげー冷静」
「えぇ?」とオードリーは笑った。
足をぱたぱた動かして笑うものだから重い空気を蹴飛ばされた心地だ。
それを見ていたらオードリーの動く足の少し上の裾が気になった。
白い足が薄いピンクの服からスッと出ていてじゃあ服にかくれているところはどんなだと考えた。
スカートの裾に目が釘付けになる。
「オルガ」
オードリーの声に弾かれて顔をあげると検査室の扉が開いていて、白い服のおっさんが
俺を睨んで苛立っていた。
呼ばれたのに気付かなかったらしい。
その日の検査結果は悪かった。
興奮状態、だと。
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