『・・・が左中間スタンドへ第14号ホームラン 専制を許します しかしその裏ワンナウト三塁からタイムリーヒットが飛び出』

ある夜、雲雀はドアを開いた位置で立ち止まった。
がナイター中継を見ていたからだ。

「雲雀、こんばんは」
「なに見てるの」
「野球」

ドアを閉めながら雲雀は怪訝な顔をした。はじっと画面を見ている。

「君、野球なんかに興味あったの」
「ルールと選手のことを教えてもらったの」
「誰に」
「山本さん」

雲雀の思考が停止し、知っている「山本」を脳内で検索する。はじっと画面を見ている。

『おっとぉ今のはボークの判定のようですが、どうですか解説の山本さん』

「解説の?」
「野球部の山本さん」

はまだじっと画面を見ている。その態度、その発言が雲雀を苛立たせた。

「いつ」
「この前」
「ここに来たの?」
「綱吉さんが半日入院して、お見舞いの獄寺さんとランボくんと山本さんと偶然」

『打ったぁー!これはいいあたり!』
『大打撃ですね』

は画面を見続けている。

「消して」
「どうして」
「僕は野球が嫌いだ」

野球に向けられていた目が振り返った。こっち、見るな。

「・・・」
「・・・」
「・・・あと、ノート写すんじゃないの」

あ、と思い出してはテレビを消し、机の上を整頓した。
ノートは唯一の手段であり、最後の手段だ。はそれ以上を雲雀に求めなかったから。







また別の日。
古びた野球のルールブック、輪ゴムでまとめた野球カード。
「なにそれ」
「山本さんが貸してくれたの。野球チップスっていうお菓子にカードついていて、小さい頃から
集めていたんですって」
「汚いから触んないほうがいいよ」
「あ、まだ見てるの。とらないで」
「・・・」







ある放課後
理科準備室前の廊下
「風紀委員」の腕章と野球部のユニフォームがすれ違う。
大きな窓から夕方の強烈な光線。

「よ。ヒバリ」

風紀委員長の返事はなかった。けれど足が止まった
「ツナがさ、今度みんなでお見舞いに行こうって」

大股で3歩の距離

「雲雀も来るか?つっても毎日行ってるんだっけ」
山本はいつもの能天気な声で笑った。能天気は声だけ。

突如大股0歩の距離

仕込み刃のトンファーが山本の首を壁に押し付けた。
一拍遅れて野球帽が廊下に落ちる。

「わかってるって。聞いてみただけ」

山本が顔も声も能天気にして笑いながらトンファーをどけ、野球帽を拾い、
もとの進行方向へ歩き出す。

「雲雀センパイは群れんの嫌いだもんな」

野球部は遠ざかる。



放課後
理科準備室前の廊下
「風紀委員」の腕章がひとり残る。
大きな窓から夕方の強烈な光線。
腕を下ろしトンファーを握り締める。

世界のゆるやかな広がりが止められない






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