「チャオっす」
そよの部屋のドアがいつのまにかわずかに開いていて、顔を向けても誰もいない。
視線を下げると黒ずくめの子供がいた。
リボーンだ。
さっきまでツナの退院ついでに顔を見せていたランボよりも小さな子供に見えたので、教育テレビのおねえさんのように模範的な笑顔を作った。
「こんにちは、ランボくんのおともだちかな」
「あんなアホ牛とは友達じゃねえぞ」
ずいぶんしっかりした日本語ですごいことを言った気がしたが、まさかと自分の耳の方を疑うことにした。
彼女とリボーンは彼女が小学校4年生のときに一度会っていたけれど気づかない。そのときのリボーンはドア枠に頭をぶつけそうな身長をしていたから。
リボーンはペタペタと二、三歩進んで改めてそよを見上げた。
「雲雀はお前を守るかもしれねえけど、おまえが雲雀以外と関わっちゃいけないってことにはならねえぞ」
そよは赤ん坊の言葉を理解するのに一瞬以上要した。一瞬のしばらく後、瞬きを忘れる。
「あと、一番悪いのはおまえが誰とも深く関わっていこうとしなかったことだ。そこは反省しとけ」
「・・・」
言い当てられた驚きは言葉にならなかった。毛布の上に敷いたトトロのひざ掛けを縋るように握る。
リボーンは帽子のつばをぐいっと下げて目を隠すと小さな踵を返した。
「だがグランマに多めにもらった分はおまえのために働いてやる。俺は一流だからな」
そよは息をのむ。
「それにしても」
(おばあさま、もういないの?)
「大きくなったな」
突風が部屋の窓から廊下まで一閃し、カーテンがバサバサと音をたててゆれた。
気をとられた直後、そこにはもう黒ずくめの赤ん坊の姿はなかった。
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