極限お見舞い大会は自己紹介から始まった。
椅子は雲雀用の一つしかなかったので、みんなでのベッドに座る。2リットルペットボトル三本に
紙コップが配られ、ケータイ番号交換会。

「極限にいかーん!」

了平が突如立ち上がった。

「全員電波オフだ!電波オフ!」
「あ、そっか!」とツナ達はここが病院だと思い出し、すばやく電波オフモードにした。ケータイを使う
ことに慣れていないだけどうやっていいかわからないでいると、

ちゃんのだとこうですよ」

ハルの音速で動く指に驚き、羨望の視線が向けられる。

「ハルさん詳しいんですね」

キラキラした目で見られたハルのほうが「こここれくらいすごくないですよぅ」と赤くなった。
(あ、いまの百合っぽい)と獄寺と山本が前かがみになったことは他の誰も知らない。

ちゃん、赤外線しよう」

笹川京子が言ったことにもは大いに動揺した。ケータイの説明書を探そうとしたよりも早く京子が
画面を指差した。

「赤外線でやると電波なくても通信できるんだよ、ええとたぶんメインメニューから赤外線のアイコンで」

の両サイドをかためるのはハルと京子だ。
男子の「ちょ、それ近すぎじゃね?」的範囲を簡単に突き破る女子たち。

「くっ、ちっとも近づけねえ・・・」
さんの繰り出すすべての言葉が女子よって打ち返される、これが女子ゾーンですね十代目・・・!」
「沢田、確かにこれはまずいぞ。そうだ!」

了平が身を乗り出した。

!赤外線は年齢順で登録だ!ここは年上の俺からだ」

迫力に圧されてまず了平と二人で「極限に赤外線!」した。
数秒で登録が終わり、次に年上なの誰だと誕生日を言い合って騒いでいる間に

「わぁ、アドレス帳の一番最初雲雀さんなんですか」

ハルが驚きの声をあげた。

「本当だ、すごい。ちゃんと雲雀さんって付き合っているの?」
「一緒に買いに行ってもらったから、たまたま最初に入っ」
「ハヒ!あの雲雀さんとお買い物デートですか!?」

ワーキャーおっぱじまったのを女子ゾーンの外から見つめる男子四人。

「こ、これは」

お花トーンを背負う景色に獄寺がおののく。
山本はにじむ汗を拭きながら神妙にうなずく。

「・・・これが“ずっと女子のターン”か」
「こうなっては仕方ない。使いたくはなかったがアレを使うしかないか」

フフフと低く笑いながら了平が背後から何か取り出し、めがけて

「いけぇえ!対女子ゾーン極限追尾型子供アタック!」

つまりランボを投げ込んだ。

「ふぎゃ」

の胸に飛び込んだランボは投げられたことにビビったあと、
前()を見て
右(ハル)を見て
左(京子)を見て

「あぁ!アホ牛がきゃるん☆としやがったっ」
「しかも女の子だけだったときより悔しい気がする!」
「獄寺くんも山本もなんか必死なのはなぜ・・・」





そんなこんなで女子ゾーンに怯えつつも着信時に表示する写メ大会。
ドサクサにまぎれて撮ったのシングルショットを山本が待ちうけにしたことは秘密だ。
ケータイいじりがひと段落すると、寿司をつまみながらみんなで映画を観ることになった。
みんなで、というのは語弊がある。
女子ゾーンから弾かれたみんなで、が正解だ。

「それ何のDVDなの獄寺君」
「実は俺も知らないンすよね。行きがけにエロ医者に突然押し付けられたやつで」
「エッチなやつ?」

山本がニコニコしながらすごいこと言った。
女子ゾーンは京子が持ってきたファッション誌の占い特集に夢中になって聞かれていなかったのが
不幸中の幸いだ。
取り出したDVDは・・・

「エロの悪夢?」

山本が読み間違えたが、実際には『エルム街の悪夢』

「こ、これ聞いたことある。ものっすごいホラー映画なんじゃ」
ツナが青ざめる。
「エロ医者からメッセージもはっつけてありますね」
たぶんエロいことが書いてあるのだろうとふんだ男子はメモを黙読した。










ガキどもへ

リボーンから聞いたぜ?美人の見舞いにいくんだってな。
そんなおまえらに大人の男としてエルム街の悪夢を授ける。
残念ながらAVじゃねえが、狙いが見え見えの恋愛映画や
女から色っぽい雰囲気をわすれさせる動物感動モノよりも
ホラーってのはよっぽど役に立つぜ。
キャーッってなったところでギュっとしてチュっとしてドサ!だ。
いいか、
キャー、ギュ、チュ、ドサのリズムを忘れんなよ。

愛の妖精Dr.シャマル

ps 今度その子紹介して





ビリっと破いた。



大画面で見るエルム街の悪夢。
そしてDrシャマルの言ったとおり、キャー、ギュ、チュ、ドサ!のリズムは正しく刻まれた。

「キャアアアア!」

とビビりすぎたツナが悲鳴をあげ、

「十代目、お気を確かに!」

と獄寺がギュとツナを支え、

「人工呼吸を!」

と言い出した獄寺がチューっと唇を突き出し

暴れたツナがベッドに頭をぶつけてドサ!と倒れた。

「しっかりしろ沢田っ。くそ、フレディ(殺人鬼)め・・・極限許さんっ」
「ハハッ、ツナマジで気絶してんな」
「笑ってる場合か野球バカ!うぉおお十代目ぇええ!」

獄寺が泣きながらナースコールを連打し、『どうしましたか』というナースの呼びかけに
「沢田がフレディにやられた!」と了平が大真面目に適当な説明をしたのでナースコール越しに
ものっそい叱られた。



そのころ女子(+ランボ)ゾーンではハルが持ってきたビーズセットで携帯ストラップ作りが行われていた。

「じゃあちゃんと雲雀さんは幼馴染なんだね」
「おさななじみ」
「そうだよ。小学校からずっとでしょう」
「あの人怖いから好きじゃなかったですけど、ハル、かなり見直しちゃいました」
「雲雀さんってちゃんのこと好きだよ、きっと」
「そう、なのかな」

は短いため息を落とした。

「ハルも応援するですよ。自信もってください、ちゃんかわいいですから」

三人でビーズを選んでは通し、選んでは通ししながらおしゃべりは絶え間なく続く。
京子の膝の上でランボは昼寝中だ。

「そういうことに興味なさそうに見えるから」
「それは確かに・・・、そういう人なんて言うんだっけ石地蔵?」
「木彫りの熊だったような」

正解は木石だが「そうそう、木彫りの熊だね」ということでまとまってしまった。

「ここは木彫りの熊の雲雀さんにフェロモンで勝負とかどうですか」
「フェロモン」
「いいかも。香水とかマニキュアとか、ちょっとお化粧したりとか」

京子がさっきまで開いていたファッション誌を引っ張り出し、パラパラと捲った。
宝石のような小瓶が並ぶフレグランス特集ページ。

「これカワイイよ。小悪魔の香り、だって」
「ハヒ!キョーコちゃん意外と大胆です。ハルはこれとか、さわやかフルーツ系」
「雲雀さんってどんな香りが好きとか知ってる?」
「好きな香りは聞いたことないけど、学校が好きみたい」
「・・・下駄箱の臭いとかですかね」
「アハハハ!マニアックだね。じゃああんまり大人っぽいのじゃないほうがいいのかなあ」
「見てください、ベビーパウダーの香りっていうのがありますよ。そういえば”赤ん坊に会いたい”って
言ってたの聞いたことあるような」
「そうだ。こういうの花ちゃんの方が詳しいから、明日学校で聞いてくるね」
「はいはい!ハルもビアンキさんにお化粧のこと聞いてくるです」



頬が笑った形のまま硬直したように笑った。
何度か
何度も
覚えていないほどしゃべった。
ドキドキする
楽しい
嬉しい
エルム街の悪夢のエンドロールが始まって、ビーズのストラップが完成した頃、面会時間の終わりが来た。
また来るね、メールする、電話していい?さっき話したCD学校の帰りに渡すから。
皆それぞれに言って、は自然に頬が緩んだ。また来て欲しかった。

「また来てね」

「心配しなくても俺たちすぐケガするからまた誰か入院するし」
「自慢できることじゃないけど、山本のいうとおりなんだ」とツナが頬をかいた。

と、この場に京子もいることを思い出し

「す、相撲大会があるからな!」とまた了平が真面目に適当なまとめをして、
聞こえるショパン「別れの曲」
夕方のテーマ






<<    >>