雲雀が来たとき、すっかり夜でそよはひどい熱を出していた。

ゴミ箱にはスナック菓子の袋と紙コップ
空の2リットルペットボドル
出しっぱなしの携帯電話にははじめてみるビーズのストラップ
ベッドシーツは乱れている。



そよがうっすらと目を開く。

「医者、呼ぶの」

端的に尋ねるとそよは首を横に振った。
汗が額をすべってベッドシーツにしみこんだ。
かまわずナースコールを押そうとするとそよはボタンを奪い押させない。
この行為はそよが仮病で雲雀を心配させようとした時に使った手口だ。
けれど今回は仮病ではないと汗の量で知る。

「なにするの」
「疲れただけ」
「君の言い分なんて聞かないよ」

そよはそれでも奪ったまま放さなかった。
目が合う。

「雲雀といると安心するのに、みんなといるとドキドキするの。不思議ね」

一瞬で苛立ちがよみがえる。
それを知らず、熱に浮かされた目は笑みをたたえ続ける。

「でもどきどきして嬉しかったことを雲雀に伝えたいって、すごく、思った」

腕を掴んで引き起こす。
ぽろっとそよの手からナースコールがこぼれた。


「そういうこと、ぼくの前で言わないでくれる」


一方的なキスだ。
そよは驚き、やがてトロンとしてくる・・・かとおもいきやガシッ!
雲雀のほっぺたを両側から指が食い込む勢いで掴み、引っ張った。
弱ってるとは思えない。

「雲雀はいつから彼女でもない子にキスする子になったの・・・」

「りゃあはのひょりはって」

なにを言っているのかわからない。
そよは首を傾げ、ぱっとほっぺたを放す。

「じゃあ彼女になって」

「・・・」

ずいと雲雀が寄った。

「ひば、近・・・」






キスの間はさすがに黙って、離れて雲雀が「なに」とそよが言いかけたことを尋ねた。

「雲雀、近い」

言うや否や今度はそよが雲雀の肩に手を伸ばして遊びのように唇をくっつけ、
遊びとは思えないやりすぎチューで押し返されたので二人してベッドに倒れた。

「・・・あのね、雲雀。私は今考え事をしているの」

そよは雲雀の腕をきゅっと掴んだ。

「考え事の結果がでたら、あなたに一番に伝えるからどうか聞いてください」

少しの間意志の強い目に見とれた。

「いいよ」



「ひばり、呼んで」

息の詰まったような切ない声で請われる。

「・・・そよ」
「そうじゃなくて」
「?」
「ぐあい、わるい」

本日二度目のナースコール連打。






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