夕方、ガランとした消灯済みのカジノ。
はるか高い天井のシャンデリアもすべて消えていて光源は天窓のステンドグラスからこぼれる
ほの明かり。
雲雀は10年後に飛ばされて、目の前には10年後のマフィアスーツ山本。

「ここどこ」
「イタリア」

多くを尋ねるまでもなく制服姿の雲雀が突然カジノに現れた理由は理解されているようだった。

通電していないスロットマシン、その背の高い椅子に座ってみる。
スロットはレバーを引いてもボタンを押しても動かない。30秒もせずに飽きた。

「まだランボのやつバズーカ打ちまくってんだ?」

山本がタバコの煙を吐きながら笑った。その唇の下に見知らぬ傷痕。

「迷惑だからあの子供を病院に連れてこないで」
「お見舞い中だったのか、そりゃ災難だ」
「ドアの下にバズーカ忘れていくとかありえない」
「入った途端踏んだんだ?」

山本が笑う。今の山本ではない顔で、身長で、(子供の話に愛想笑い)みたいな余裕を見せながら
笑う。それが雲雀には気に入らない。
ここは10年後
あ。と思いつく。
近くのカジノ台には10年後の雲雀のものであろうケータイがあった。

(僕なのだから、僕は見ていいはずだ)
に電話をかけていいはずだ)
(国際通話の料金は僕が払うのだろうから、なんら問題はない)

「あ、おい」

山本がケータイをでたらめに押し始めた雲雀を止めた。

「それヒバリのだぞ」
「僕は雲雀だけど」
「あ、そっか」

10年後もバカでよかった。
ボタンのない携帯電話。適当に画面に触れるとディスプレイが飛び出した。
ぼんやりともる立体映像。
待ち受け画面は、・・・はずかしいやつ。
静止画

きれい
病室で桃色のカーディガンを肩からかけて、こっちにむかって微笑んでいる。
十年後の
若い
きれい
さわりたい

「なあ、誰にかけるの?」
「君には関係ない」
「じゃあさ・・・待ちうけって何かいてあんの」
「写真」
「だれの?」
「言わない」
さん?」
「・・・」

指を離すと立体映像が消えた。山本にはその映像は見えていないらしい。

「画面はね、電話をかけたいと思った人が出るんだ」
「・・・」

通話オプションを勘でプッシュする。
電話はかからない。

『番号が登録されていません』と出る。

使い方を間違えているらしいが、山本に聞くのは癪だった。
もう一度

『番号が登録されていません』

「かからないよ」

山本は雲雀の顔を見ずに言った。ステンドグラスの光源が急に光を弱め
カジノは真っ暗。

「もうかからない」



『番号が登録されていません』



ない
ちがう
絶対
だから
嘘だ














世界が病院へ引き戻された。10年前の世界。いや、今、の世界。
自分の腕がを抱きしめていた。

雲雀が離れても、はうつろな目で頬を赤くしてポーっとしていた。
雲雀が10年後と入れ替わっていたことに気付いていないのもしれない。

唇濡れてる。

「なにしてるの」
「・・・いいの。こういうのもたまには嬉しい」

十年後の自分 殺す。







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