雲雀は18歳になった。
リボーンは病院の駐車場で山本を横に、タバコを吸っていた。山本は似合わない黒いスーツを
着ている。刀は車の中だ。リボーンはすでに元の姿に戻っている。帽子をあわせれば山本よりも
背が高い。これから三人でお仕事だ。仕事の種類はリボーンの本職であり、高校生の山本と
雲雀にとっては放課後のアルバイト(ちょっと過激だけど)。
このメンツで行くということはとんでもなく危険な依頼なわけで、雲雀は恋人としばしの別れを惜しんで、
残った二人は「ラブ待ち」である。

駐車場から見上げる遠くの病棟、開け放った窓に白いカーテンがいくつもゆれている。

「なあ」
「なんだ」
さんて治るのかな」
「さあな、俺は殺すほう専門だ」
「なあ」
「なんだ」
「ヒバリはさんと別かれないかな」
「さあな」
「じゃあ結婚すんのかな」
「手繋いでキスしてセックスした次が結婚だとでも思ってんのか、ガキが」
「んなこと思ってないけど。あの二人ってなんかこう安定してるっつうか、熟年夫婦っぽいつうか。
このアルバイトのおかげでそこそこ収入もあるし?」

今に至るまで雲雀はを愛している。一緒の時間が長すぎて妹のように思っているということはなかろう。
山本はを見舞った日のことを思い出す。体育祭を見に来てもらおうと誘いに訪れた。雲雀がいても怒られ
ないように寿司まで持つという周到ぶりで向かった。
ところが
ノックも適当に「ども。さん具合どう」と中へ入ったら雲雀もいた。
雲雀がを押し倒していて、ワンピースを胸までたくし上げている真っ最中だった。雲雀は山本にまったく動じず、
だけが赤面してワンピースを引き戻そうともがいていた。
場が凍った。
山本は10拍ほど遅れてポンと手を打つ。そして大声で

「ヒバリってチンコついてたんだ」

と言った。その後は言うに及ばず。
思い出すだに古傷が痛む。


「エッチはちゃんとしてるみたいだし」
「振られたんだとよ」
「は?」

リボーンはゆれる白いカーテンの群れを眺めながら煙を吸い込んだ。

「誰が?」
「プロポーズ玉砕。あんときの雲雀はおもしろかったぜ」

山本はあきっぱなしになっていた口を手動で閉じた。

「マジで。それいつの話?」
「無粋だな」
「ぶすいですよ俺は」
「この前だ」
「ふうん・・・。まだ若すぎるからかなあ。俺の目から見たってヒバリはぞっこんだし、さんも
ヒバリのこと愛してるように見えるけど。あ、言っててすげえくやしい」
「さあな」








「なんで断ったんだ?」
リボーンは花瓶に花を飾っていた。いくらかのカスミソウに取り囲まれたピンクの花。
花言葉は『希望』だそうだ。
このころにはすでにリボーンの正体も素性も事情もバレていた。

「・・・雲雀が言ったんですか」
「酔って暴れたから俺が直々に灸をすえる大騒ぎになってな。あいつが傷ついたときにどうにかするのは
おまえの役回りだろ」

は苦笑しただけだった。

「おまえが俺のお嫁さんになりたいってんなら話は別だが」

言いながらリボーンは雲雀のための椅子にかけ、元の姿に戻ってすっかり長くなった足を綺麗に組む。
エスプレッソの小さなカップを唇に寄せた。
は窓際に置かれた花瓶、そよぐピンク色の花びらに目をやって和ませた。
白いカーテンが窓の外へゆうるりとふくらむ。

「雲雀は若くて、美しい。心も身体も健全です。結婚や婚約や約束に縛られて幸せになれないのでは
あまりにも惜しい」
「傲慢だな。それに卑屈だ。男にモテねえぞ」

は息をもらすように笑った。

「そう。だから決して今のことを雲雀には言わないでくださいね」
「雲雀にはモテてたいわけだ」
「モテていたいんです」

そのあとは少し黙ってから、右足が動かなくなったと言って泣いた。
雲雀には言わないで、雲雀には言わないで
そう繰り返して泣いた。







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