雲だ雨だ大空だとケンカしている最中も授業ノートはに渡り、は日々増える雲雀の怪我をいたく気にした。

「僕は女の子じゃないんだから、君が気にすることじゃない」

顔に傷がある。
理科のノートを写すシャーペンが止まった。
一瞬の間があって「うん」と小さく返った。形の良い唇を真一文字に食いしばって。
その表情を見た一瞬間だけ、頬杖から彼の頬が放れたことに雲雀自身は気づいていない。
シャーペンが動き出し、やがて頬は頬杖に戻る。
ペンがノートの罫線の間を滑る音だけになったので、雲雀はリモコンをとった。
一昨日もここで見ていた映画の続きを再生する。
映画は「レオン」

の病室のほかと違うところ、
52型液晶テレビとブルーレイレコーダーがある。
看護師が巡回に来ない。
冷蔵庫とシャワーとトイレがついている。
雲雀が黒革の椅子を持ち込んでも誰も怒らない。

この待遇の理由は金だ。
雲雀は直接の口から金の出どころを聞いたことはなかった。聞きたいと思ったこともなかったので聞く必要がなかった。



「雲雀」

顔は映画の方で、目だけ呼ぶ声に向ける。

「誰かに怖いことをされたら私に言って」

は真面目な顔だが雲雀は鼻で笑った。

「君に言ったらどうにかなるの」

ベッドの上、の背はぴんと伸び長い睫にふちどられた目が強く雲雀を見た。

「うん」

夕方の強い日差しがの背中にあたり、大画面にはレオンのクライマックスの爆破シーンが流れていた。
視線を映画に戻した。
それからスタッフロールの一番最後、真っ暗な画面まで流れ、雲雀はようやく返事をした。

「怖いものがあったらね」

はその答えで満足な様子だった。
雲雀は爆破のあとのシーンの一切を覚えていなかった。







にも関わらず、雲雀は夜の学校での大騒ぎの結果、全身怪我をしてまた入院した。全治2週間と診断されたものの身体が動くようになった二日目には病院を抜けて学校へ行ったり、町へ行ったり、ボコったり噛み殺したりし始めていた。
だが傷が消えるまでの約一ヶ月間はのところへ行かなかった。怪我を見たらまた興奮して飛び掛ってくるだろう。

もう御免だ。

(もうしないからね)

あんなの

(ね)

もう



「・・・ぁ、っう」

寝返りを打ち横向きになって中三の昂ぶりを鎮めた。
手が白濁に汚れる。
そういうことにの姿を使ってしまった負い目も相まって、一ヶ月、行けなかったのである。






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