成人式典に参加する若者のほとんどは養成学校上がりで、給金もスズメの涙程度だ。
財力のある家柄であれば豪華なドレスやタキシードを持参するが、そうでない若者のために軍宿舎の倉庫には代々使われてきた衣装が保管されている。
『代々』というのが何年前なのか正確にはわからないが、少なくともジェイドの見てきた数十年間は同じデザインの、同じ色の(徐々に色あせている)、同じドレスを着た女性が必ずいたものだ。
横に並んだフリングス少将はだんだんと入場してくる照れくさそうな若者たちの姿を微笑ましく見守っている。
一応式典なので、上官も軍服の中でも最正装を求められる。
勲章もありったけ付けなければならない。
「何度見ても、初々しくて良いですね大佐」
「フリングス少将はあの中に混ざってもなじみそうです」
将軍の地位にありながら、どう見ても20代前半の驚異的な容姿の持ち主、アスラン・フリングス少将はジェイドの嫌味に苦笑いをした。
ジェイドよりも胸に掛かったメダルの数が二つほど多い。
かわいい顔をして恐ろしい男である。
「カーティス大佐は成人式典には参加されなかったんでしたっけ」
「ええ。私は十代から研究所勤務でしたので、養成学校名簿になかったという理由で事務局が案内を出し忘れたそうです」
「それは残念でしたね。私にとっては軍に入ってからの一大イベントでした。ある意味初陣より緊張しましたよ。なんといっても軍では女性が少ないですので」
フリングス少将はポケットから『成人式典しおり』を取り出して参加者への注意条項を指でなぞった。
「女性は男性のエスコートがなければ参加できません。男性はエスコートする女性がいない場合、一人で入場してください。というルールがあるんです。みんな一人で入ってくるのは恥ずかしいので、式典前は争奪戦なんですよ」
「少将はいかがでしたか」
「運がよかったんです。彼女は今でも良い友人です」
さらっと言ったが、やはりこの男、勲章の数に見合う胆力があるように思われた。
ざわざわと騒がしかった大広間が急に静かになった。
「そろそろ時間でしょうか」
フリングス少将が言ってジェイドが時計を見た。、
皇帝が現れて静粛になったのかと思えば、開始時間前であるから二階席の玉座にまだ皇帝の姿はない。
「なんでしょうね」
フリングス少将が背伸びをして入り口付近でたむろしている主賓諸君の群れの、その中心を見ようとした。
彼よりも頭一つ分高いジェイドは中心を見ることができた。
緊張して真っ赤になっている角刈りの青年と、あの髪の色は
「大佐、誰がいるかわかりますか」
「・・・さあ、存じません」
古の王が、色あせたドレスを纏って現れた。
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