「うっうっうっ・・・青年、おっさんのこと刺して」
「やだよ。くせえ」
「めんどって入れて!せめてめんどくせえって言って!」

本日二度目の酒場。
宿屋に乗り込んで、寝ようとしていたユーリを連れ出した。
「ぼくも行きたーい!」と挙手したカロルには飴ちゃんをあげてラピードに任せ、宿屋に置いてきた。

「オーマオーマっておっさんなんてどうせどうせ!!」

「オーマオーマ言っとるのはおっさんも同じじゃろが。おっさんもまだ勃つ男じゃったらの心の中のオーマの面積よりもおっさんの面積が広くなるよう努力せい!」
「パティちゃん・・・雄々しい」
「つーかパティはなんでついてきてんだ。この時間じゃお子様は追い出されるぜ?」
「つれないことを言うでない。それにうちから見たらユーリもおっさんもまだまだケツの青いお子様じゃ。特におっさんのケツは青すぎる!」
「め、めんぼくないです・・・うっうっ」

パティはバシンとカウンターを叩き、レイヴンを更に叱りつける。

「アホうが!弱気になるでないわ!一緒に住んでるのであれば色々やりようはあろうが」
「具体的には」

ユーリに切り返されて、パティはそうじゃのうと立てた人差し指をくるくる回した。
かなり悩んでから少し声のボリュームを落として

「・・・一緒に無人島に取り残される、とかじゃ」
「一緒に住んでること関係ねえな」

「じゃあユーリもおっさん挽回プランを出してみぃ」

なんで俺が、と言いながらもユーリは視線を宙に浮かせて考えてくれた。

「・・・甘いもの作る、とか」
「うわあ。まともすぎてちょっと引く。青年なら殴りあうとか脳みそ筋肉な意見が聞きたかっギャ!」

レイヴンの足をユーリのブーツが踏みつけていた。

「おねえさん、蜜蜜ザッハトルテ15個追加で。会計はこのおっさんにつけといて」

レイヴンはギャ!と言って跳ねたきり、力を使い果たしたように消沈し、カウンターにつっぷした。
動かなくなる。
ピクリともしない。

「ユーリ、おっさんの急所でも踏んだのか?」
「おっさんの急所って足だったのか」



「・・・せいねん」

「ん?」

「もっと踏んで、殴って、ボコボコにしてくれや」

ふざけていない普通の声でぼそと呟いた。
よほど急いで出てきたらしく、今日はチョンマゲ頭をといている。
カウンターに顔を鎮めると垂れる髪で表情が見えない。

「俺、何人も代わりがいたあんたとは違うってに言った。最悪だ。こんなもん埋め込まれて道具になってて、物扱いされる奴の気持ち知ってるのに。知ってるからどう言ったら一番傷つくかも知ってて言ったんだ。たちがわるい。嫉妬しただけじゃねえか」

さっきまでのカラ元気も限界にきたらしい。
ユーリとパティは顔を見合わせて、ほとんど同時にため息をついた。

「おっさん」

パティは声のトーンを一つ落とした。

「うちの船は明日の正午に出る。時間になれば絶対に出発するが、幸運なことに時間になるまでは絶対出発しない。さらに幸運なことにまだ日付すら変わっとらん。時間はある」

ユーリは聞いてないふりをしてグラスを傾けた。

「どう言ったら傷つくのか知ってるなら、どう言ったらむくわれるのかも知っとろうが」

ユーリは本当にパティはいったい何歳なんだろうかと思ったけど、聞いてないふりをしているから、レイヴンが席から立ち上がるまで口には出さなかった。






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