「おかえりジュディス!」

情報収集に行っていたジュディスが2日ぶりにダングレストに戻ってきた時、ジュディスと一緒にリタもいた。
カロルとラピードが駆け寄る。

「ただいま、カロル」
「わっ、どうしてリタまでいるの?」
「あたしがいちゃ悪いの、ガキンチョ」

夕暮れのダングレスト、東の橋の上でリタがカロルを小突いた。

「悪くないよ。でもマナの研究してたんじゃなかったの?」
「あんた達がケーブ・モッグ行くっていうから、沈静化したエアルクレーネの様子見に行こうと思って」

ユーリはカロルよりだいぶ遅れてのんびり歩いてきた。

「なんだ、デュークのやつケーブ・モッグにいるのか?ジュディ」
「残念ながら正確な居場所を知っている人はいなかったの。ただデュークらしき人の目撃情報があったのは三箇所。そのうちのひとつがケーブ・モッグ大森林、遺構の門(ルーインズゲート)の人たちが最深部に向かうのを見たそうよ」
「案外近くに目撃者がいたんだね」

依頼人と落ち合う予定の酒場へ向かって歩きながらジュディスが続ける。

「二箇所目はユウマンジュ」
「え、デュークって温泉好きなの?なんか意外」

あのデュークが温泉につかっている風景を想像すると、全然に会わないような、けれどなんとなく似合うような不思議な心地がした。

「ユウマンジュの温泉に入っていったのかまではわからないわ。近くで見かけたっていう観光客がいたんですって」
「まああの変わり者のことだから、秘境とか辺境にいたほうが普通に感じるわ」
「リタが変わり者って、言うんだ」
「なんか文句あんの!ガキンチョ!」

「ジュディ、三箇所目は?」
「エフミドの丘。デュークらしき人は街道をそれて森の奥に入っていったそうよ。これが一番有力なんでしょうけれど・・・」

ジュディスが珍しく少し困ったふうな仕草をした。
カロルに振り上げていたこぶしを下ろして、リタが補足を加える。

「街道はかろうじて復旧したけど、ヘラクレスの主砲を受けたせいで地形がぐちゃぐちゃになってるって話よ。前に使った山道は使えないでしょうね」

三大陸に渡って目撃情報があるデュークもさることながら、

「よりによって大森林と秘境と主砲あたった場所かぁ。依頼人さんにこれを教えたら一応受けた依頼は完了だけど、一人で向かったりしたら危ないよね」

カロルがあごに手をあてて「う〜ん」と悩み、ふとみんなの視線が注がれていることに気づいた。
なに言ってんだこいつ、くらいの驚きのこもった視線である。

「凛々の明星は、義をもって事を成せ、不義には罰を、でしょ?リタはもう私たちがケーブ・モッグに行くのだと思ってついてきているのよ」
「あ、うん!そうだね!ちゃんとさんが安全にデュークと会えるようにするのが、ボクらのやり方だもんね!」

リタは「しっかりしなさいよね〜」とあきれている。
「ワン!」とラピードが吠え、
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「今日はユーリが静かね。なんか不気味だわ」
「俺は無口な男なんだよ」
「いつもならノリノリで“ブレイブヴェスペリア、しゅっぱーつ!”とか言うじゃない」
「言ってんのはカロル先生だろ」

ユーリは頭の後ろで手を組み、皆より2歩前を歩いている。
リタ、ジュディス、カロルはその後ろで顔を寄せ合った。

ひそひそ、ひそひそ

「なんかね、ユーリ依頼受けてから2日間ずっとあんな感じなんだよ。上の空だったり、夜も勝手にどっか行っちゃったり」
「ふふふ、やっぱり依頼人の美人さんとワケアリなのかしらね」
「なにソレ!あたし初耳なんだけど。どういうことよ聞かせなさいよ」

ひそひそ、ひそひそ

「どうしたのって言っても全っ然教えてくんないし、直接関係を聞くのはボクにはできないよ」
「なによなによ。依頼人さんってそんな美人だったわけ?そゆときはおっさんも呼んでよ」
「ダメだよ。レイヴン呼ぶと絶対依頼人さんに迷惑かけ・・・レイヴン!?」

いつのまにかひそひそ話にレイヴンが混ざっていた。
どっから湧いて出たのよ!とリタが声を荒げる。

「だって〜、おっさんダングレスト在住ピチピチの35歳だも〜ん」
「気持ち悪い!」

リタの正拳突きをひらりとかわし、石畳の上で軽やかにステップを踏みレイヴンはユーリに絡む。

「なぁなぁ青年」
「・・・」
「依頼人ってどんな子?かわいい系?きれい系?何歳?おっぱい大き」



足を払ってレイヴンの体勢を崩し、ユーリの身体が沈んだかと思うとレイヴンの脇に腕が入ってレイヴンの足が浮く。
そして



一 本 背 負 い !



「ね?あんな感じでずっと様子がおかしいんだよ」
「確かにちょっとおかしいわね」
「熱でもあるんじゃないの?」

カロルとジュディスとリタは“ユーリの様子がおかしい”と結論づけた。

「あの・・・すみませんがいきなり青年に石畳で一本背負いされて受身をとったけどすごく背中が痛くて泣きそうなおっさんのことを誰か心配してください」



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