「ユーリィ!」

半日ぶりの合流に、カロルはユーリの腰に飛びついた。

「心配したんだよぅ・・・!」
「大の大人がっ!何回も心配させないでよ!アホ!」
「悪ィ」

ユーリは泣きそうな声を出すカロルの頭をぽんぽんと撫でた。リタも涙目だ。
ユーリの腰に抱きつくことのできないリタは後ろからゆっくり歩いてきたレイヴンにポンと一回だけ頭を撫でられた。
ギャーギャー文句をいうリタを背に、レイヴンはの前に立つ。

「ご無事でなによりです、皇妃殿下」
「心配をかけました」

声音も態度もシュヴァーンのようで、後ろにいたリタがピタと騒ぎ止んで驚いている。

「せいねぇ〜ん、殿下に手ェだしてなぁい?」
「おっさんと一緒にすんな」
「ひど!」

と思ったら一瞬でいつものうさんくさいおっさんに戻っていた。

「二人とも無事でよかったわ」
「そうだ!あのね、ジュディスがデュークの居場所をつきとめてくれたんだよ!」
「ふふ、あなたがついてるなら大丈夫だと思って、先に探させてもらったの」
「さすがジュディ」
「目撃情報があった場所にも立ち寄っていたみたいだけど、いま彼がいるのはイリキア東諸島の南端よ」

ユーリはラピードの首をわしゃわしゃ撫でながらを振り返る。

「よかったな」

ほんの短い時間だけユーリとの視線が重なる。
ユーリはユーリらしく笑ってくれたから、は静かにうなずき、享受する。

「い、今の見つめあいナニ?青年ほんとに殿下に手だしてないよね?ないよね!?」
「ありがとう、皆さん。感謝を申し上げます」
「うわー・・・おっさんついに殿下にも無視されちゃった・・・」
「ところが、感謝されるにはちょっと早いのよね」

リタがめんどくさそうな声をあげる。ジュディスも困った顔だ。

「ええ。会いたがっている人がいるって説明しても“自分を人間を捨てたから”の一点張りで、拒否されてしまって」

ユーリがを好きでもがユーリを好きなわけではないように、がデュークのことを想っていても、それがどれほど長い年月だったのだとしても想いが通じているとは限らない。思春期の少年少女のための本に書いてあるような教訓だ。けれど大人だって同じ。
それはわかっていた。
ユーリはいっその想いがデュークに通じていなければいいと思っていた。同時に自分は破れ、とデュークは結ばれて末永く幸せに暮らしましたとさ、で終わることを予想してもいた。矛盾する自分の思考をうまくまとめられず、きっとこれはトーナメント戦で、自分が負けた相手なら最後まで勝ち抜いて優勝して欲しいと思うのと同じなのだと思うことにした。デュークはユーリに勝っておきながらトーナメントを棄権しようとしている。

「だからおっさんね、ジュディスちゃんと一緒にちょいと作戦考えたわけよ」
「ふふ、そうなの」
「作戦?ジュディはいいとして、おっさんのはあやしい」
「ボクとリタは仲間はずれにされたんだ。ひどくない?」
「少年とリタっちはもうちょっーと経験値積んでからね」

ジュディスは固まっていたの手を引いた。

「それじゃ、行きましょ」
「どちらへ」

デュークには会うことすら拒絶されてしまったのに。

「相手に壁を作られてしまったら、ぶち破ればいいと思うの。ふふ」

森の木々が開けた場所にバウルが下りてきていた。



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