御堂筋とユキちゃんの春夏秋冬



御堂筋とユキちゃんの成人の日



御堂筋のコートの裾がグイグイひかれた

「な、なァ、振袖めっちゃかわいいなあ」

叔母に頼まれたスーパーの買い物の帰り、振袖に身を包む女性がふたり、通り過ぎていった。振り返ってまで見つめてユキちゃんが辛抱たまらんというように体を震わせスパークした。

「はぁー!ええなあ!」

御堂筋が特に何も応じずにいてもユキちゃんはまだひとりでに盛り上がっていて目を輝かせ
ている。

「うちもハタチになったらあない綺麗なの着れるんやなあ。はやくハタチなりたいなあ」

そう言ったユキちゃんが、まさかあんなことになるなんて、その時はボクは予想もできんかった

「死なんわ。翔兄ちゃんヘンなナレーション付けるのヤメてや」

ユキちゃんは笑ってスネにとても軽いローキックがくわえられた。御堂筋はローキックをうけても黙っていて、もう家の屋根が見えてきた。
そのあとは特に会話もないまま母屋の玄関まで荷物を運びユキちゃんと別れ、特になにもいわずに離れの引き戸をひいた。

「…」

冷たく硬い玄関で、御堂筋は数分ぶりに口をパカ、と開いた。

「…せやな」

白い息がまるく浮かんですぐ消えた。



「せやな」





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