『キュアリーの老人』


 その昔、コーンウォール地方のリザード岬近くのキュアリー教区に住んでいる年老いた漁師が、キナンス入江の浜辺を散歩していると、海から離れた深いよどみのそばの岩にすわっている人魚を見つけました 。
 その人魚は、頭からつま先(?)まである長い豊かな金髪のもつれを、細く白い手で解いていましたが、老人に声を掛けられて、初めて自分が引き潮に取り残されたことに気が付き泣きだしました。
 老人が訳を聞くと、入江に潮が満ちている時、夫と子供と来たのだけれど、自分一人だけでまだ見たことのない陸地の奥を見ようとここまで来て、疲れたので休んでいると、気が付けば潮は引き、ひとりでは帰れぬ所にとり残されてしまった。
 夫は空腹になると、みさかいなく狂暴になり自分の子供でも食べてしまうだろう。それなのに夕食の用意をしてこなかったと、泣いているのでした。
 同情した老人は、人魚を背負って海まで運んで行きました。
 その途中、人魚は海まで運ぶお返しとして、3つだけ願いをかなえますと老人に言い、老人は「魔法のまじないを破る力」、「盗られたものを見つける力」、「病気を治す力」の3つの力を得るという願いをかなえてもらいました。
海に着くと、人魚は象牙のくしを老人に手渡し、私に用がある時はそれで水を三度叩けば、再び会いにきますと言って海へと帰っていきました。
 その後も、老人はよく海へいっては、水を叩き、人魚を呼んで話をしたといいます。  また、人魚は人間のすることに興味を持っていたので時おり背負っては、人間が歩きまわっているのがよく見える所へ連れて行ったりしました。
 そののち、彼は願いで得た力を善いことに使いました。そのため、彼の子孫にも力は伝わり、その子孫も善いことだけ力を使いました。
 今でも彼の子孫はその力で善いことをしているそうです。

[次の話へ]

民話研究コンテンツへ戻る