『ルティと人魚』


 ある日、リザード岬の近くのカリィ村の漁師ルティは、美しい人魚が岩礁のあいだにできた潮だまりに、打ち上げられているのを見つけました。
 ルティは 人魚に海まで運んでくださいとたのまれ、その人魚の美しさに惹かれたルティは、承知しました。
 そのお返しに人魚は3つの願いを叶えてあげましょうとルティに言いました。
 ルティは「魔女のまじないを破る力」、「魔女やその仲間に善いことをさせる力」、「この2つの力が子孫にまで伝わること」を願いました。
 人魚は私利私欲のない願いに喜び、さらに「彼の家族の誰もが決して飢えないこと」を約束し、彼女の与えた櫛を使って人魚を呼び出す方法を教えました。
 さて、ルティは海のへりまで人魚を運んできましたが、人魚はもっと先のほうまで運んでくれるように、とてもやさしい声でたのみました。
 ルテイはハンサムでしかもたくましい男でしたので人魚はもっとこの男を見ていたくなったのです。
 ルティは人魚を抱いたまま、どんどん海の中へと入って行きました。
 その時、彼の犬が狂ったように吠えてルティの気を引かなければ、二度と妻や子供たちとは会えなかったでしょう。
 その頃には、人魚は激しく彼にしがみついて海に引き込もうとしてきたので、ルティは持っていた鉄のナイフで彼女を嚇かしました。
 海の民は、鉄製のものを嫌うのです。
 人魚は、9年後、再び戻ってくると歌を残して海に消えて行きました。
 人魚は約束を守り、3つの願いは叶えられました。
 そして、9年後、彼女は約束を守り、再び戻ってきて彼に呼びかけ、それに応えてルティは海に消えました。その表情は幸せそうでした。
 その後も9年毎に、カリィ村のルティという男が海に消えて行きました。
 しかし、彼らが最初のルティのように楽しげだったかどうかは、もう誰も知るものはいません。

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