『メロウと魂の篭』


 昔、アイルランドのエンネスから程遠からぬ海辺にジャック・ドハティという男が住んでいました。
 彼はメロウと会ってみたいと思っていました。というのも彼のおじいさんというのがメロウと、とても仲がよかったからです。
 ある日、彼は海辺を歩いていてメロウと出会いました。そのメロウはおじいさんと仲よくしていたメロウでした。
 彼はそのメロウと仲よくなり、次の機会にメロウの所で御馳走になることになりました。
そして、いよいよその日が来ました。
 海で待っているメロウは、自分のかぶっている赤い三角形の帽子と同じ帽子を持ってきていて、それをジャックにかぶせて、いっしょに海に飛び込みました。
 その帽子は、海の水の中を通るために必要なものであり、これがないとメロウも水の中を通れないのでした。
 2人は海の中を通りぬけ、彼の家のある海の中の乾いた陸地へと着きました。
 そこで、2人して酒を飲んでいるうちにメロウが魂の入っている篭を持っていることを知りました。
 その篭には嵐で死んだ漁師の魂が入っているのでした。
 メロウによると、嵐の晩などに篭をその辺に置いておくと、沈んできた魂が寒いので篭の中に入るのだと言いました。
 ジャックは、なんとかこの魂を助けられないかと思いました。
 そこで良い方法を思いつき、メロウを自分の家へ連れて行きました。
 酒好きのメロウを酔っぱらわせて、そのすきに助けようというのです。
 しかし、メロウは実に酒に強かったのです。海で難破した船から手に入れた強い酒をよく飲んでいるからです。
 そこで船にはあまり積まれない酒を出したところ、思った通り酔いつぶれてしまいました。
 そのすきに、ジャックは三角帽子をメロウから取りあげ、海の中のメロウの家へ行き、魂を助けて、また素知らぬ顔で戻ってきました。
 メロウは酔いつぶれたことを恥かしがりながら海へ帰って行きましたが、ジャックのしたことには気がつきませんでした。
 その後も長い間2人は、仲の良い友人でいました。また、ジャックは時々同じようにして魂を助けていました。
 けれどもある日、メロウが突然、姿を消してしまいました。
 年を取っているといっても、メロウの中では、まだほんの若造にすぎぬくらいだし、引越しでもして他の所に行ってしまったとしか考えられませんでした。
 とはいえジャックは、あの三角帽子を持っていないので、海の中へ行って確かめることは出来るはずもありませんでした。

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