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4:土曜夜

ふう… 走ったから、汗かいちゃった……



じゃなくて!

私、何やってんの!? まるで本当にその気があるみたい…に…
お兄ちゃんに…… キス、しちゃった……

あまり頭が整理できてないうちにお兄ちゃんが帰ってきた。
どうやら私を追いかけて走ってきたみたいで、息が荒くなっている。


「……博美、お前……」
さっきのはどういうことなのか、って聞きたそうな顔してる。
「お兄ちゃん、お風呂入るからお湯入れてくる。」
口実付けてその場から逃げ出した。

ぬるめのに入りたかったから温度を下げて設定する。
少しずつ満たされていく浴槽を見ていたかったけど…
やっぱり居間でのんびりしよ。

お兄ちゃんが、ソファーに座ってテレビを見ている。
でもその思考はおそらく混乱の極致に至っているんだろうな。
まだ汗がひいてなくて、頬に残っていた。

ちらちらとこちらを見ている視線を、本を読んでいるフリで回避する。

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昨日から…なんか変だ。 私が… 私だけではなくて、周りの人も…

まずは美香。
お兄さんとセックスしてた。 しかもずっと前からしている… それを、私の目の前で……

次に私。
それを目撃して、家に帰って…… それからずっと頭が混乱してて落ち着いていない。

そしてお兄ちゃん…
私につられるように混乱し、させられている。


もしかしたら、夢オチなのかもしれない。
そう思って唇を噛みしめてみる。
……痛みがある。 少なくとも現実らしい。

だったら覚悟を決めるしかない。
逃げられないのだから。 見捨てられないのだから。 想いが…あるのだから…

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「お兄ちゃん… お風呂、一緒に入らない?」
なんかベタなセリフ、と思った。

「……遠慮しとく。」
「ええ〜? こういうのって、喜んで一緒に入りそうなもんだけど〜?」
「……万人がそうでもないさ。」
「ふうん… じゃあ、ドアの外に居てよ。 また気絶したら大変でしょ?」

本当は一緒に入って反応を確かめてみたかったけど、(それこそエロ漫画みたいに…?)
せめて話をしながら確かめよう。 お兄ちゃんを、お兄ちゃんの気持ちを… 私を…

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私が完全に浴槽に入って、ようやくお兄ちゃんが脱衣場に入った。
薄い曇りガラスの向こうで、こちらに背を向けているようだ。
「お兄ちゃん、いるの〜?」
「ああ。」

「……。」
「……。」
このまま黙っていても埒があかない。 ずばっと本題を切り出してしまおう。
「……お兄ちゃんってさ、どう思う? ……近親相姦って。」
「……。」

「本で読んだらさ、書いてあったよ。 なんでしちゃいけないのかって。」

「遺伝子が似通ってる兄妹なんかだとね、
 有性生殖の利点の『違う遺伝子を取り込んで発展する』事ができないんだって。
 しかも奇形とかの確率も増えるんだって。」

お兄ちゃんは、相づちも打たずに黙ったままだ。
「……匂いでもね、兄妹とか、近親者の匂いを判別して受け付けないようにするんだって。
 お兄ちゃんって、時々汗くさいもんね。 それ嗅いだら確かにやな気分になるもん。」
「……そうか。」

「で、どうする?」
「……。」


「……わかんないよね。 私だってわかんないもん。

 じゃあなんで美香はそんなことしてたのかな。

 なんで… 私は……」

「……。」

「……もう、出るから。」

「わかった。」

「……お兄ちゃん、……。」

もう、そこには居なかった。

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どう、しよっか…
私は、着替えた後で…廊下に立ち尽くしていた。

お兄ちゃんに抱きつく? 優しくキスし合って、ベッドに運んでもらう?

それとも寝込みを襲われるのを待とうか。 その間に痛くないように濡らしておくのも悪くない。

先にお風呂に入ったんだから、お兄ちゃんのベッドで待ち受けようか。

でももう夜も蒸し暑くなってきたから、ベッドではなくて居間でした方が……



って!! 何考えてんの私は!!!!


まさか、お兄ちゃんとセックスする事を考えてる!?
そんなわけないでしょ!? ちゃんと了承を取らないと……

ってそれも違う!!
さっき近親相姦を否定するようなこと言ってたのに、それを望んでる!?

あんなに嫌悪してた私はどこへ…… 私も、美香と同じな変態……?


「おい、博美… どうした?」
いつの間にか風呂から上がっていたお兄ちゃんが私の肩を叩く。
私はどれだけ立ち尽くしていたのだろうか。
妙に冷えた体に、お兄ちゃんの手が温かく感じられた。

「お兄ちゃん…」
反射的にお兄ちゃんの胸に飛び込んで、泣きつくようにしてしまう。

「私、私… どうしたらいいの?

 いけないって、わかってるのに… そんなの、好きでもないって、わかってるのに…

 どうしても…止められない。 お兄ちゃんに、セックス、されてる、私を、想像して……」

「……。」

「助けて、助けて欲しいの… 私を、私の考えを…」


優しく、私を抱き留めていたお兄ちゃんの手が、私の顔を包み込むように動いた。
そしてキス待ちの体勢も出来ないうちに…キスをされた。

……額に。


「……。 コンドーム、あるからな。」
「……うん。」

……お兄ちゃんは、優しい……
額へのキスは兄としての愛情。 コンドームは性交OKの証。
ホントに、ありがとう……

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「最初は、どんなのがいい?」
私の部屋に入ったお兄ちゃんの第一声はそれだった。

「どんなの、って?」
「……後で言い訳するために、俺が襲ったって事にした方が……
 その方がいい事もあるかもしれないし……」
「どんないい事なの? それって。」
「さあ……

 じゃあ…… 普通で、いいな?」
「うん……普通で……」


まずはアメリカ映画みたいな舌を絡ませるキスをされる。
お兄ちゃんのように額にする親愛の情ではなく、
私がした、少しだけ触れてすぐに離れた子供じみているようなものでもなく、
熱く… 艶めかしい気分がする口づけ…

「脱ごっか…」
唇を離して一息ついてから告げた。


着たばかりのパジャマを脱いで、裸を晒す。
さっきは一緒にお風呂に入ろうなんて言ってたくせに、
いま裸になって、胸を見せているだけで恥ずかしい。


お兄ちゃんもパンツだけになって、私の横にいる。
「……で、どうすればいいの?」
「あ〜… とりあえず、布団に入ってくれ。」

裸同士で、肌が触れ合うように二人寝そべると
もやもやした感じの気恥ずかしさと、どきどきとした興奮が湧いてくる。

お兄ちゃんがきつく抱きしめるように抱きついてきた。
パンツはもう脱いだらしく、もじゃもじゃな股間の辺りの毛の感触が足に触れる。



「……触って、いい?」
「ああ。」
導かれるように、手を伸ばす。
「あ… あったかいね…」
「そりゃ…な。」

「もう、入れられるの?」
「いや… まだ勃ってない。」
「ふ〜ん… 可愛い妹がこんなに迫ってるのに〜?」
「緊張してんだよ……」
緊張してるとダメなんだ… そうね、私も緊張してる…



手探りで周辺を探索してみる。
「これが…金玉?」
「そう。」
「……こうしたら、気持ちいい?」
揉むようにして力を入れてみる。
「痛てて…! そう力を入れるなって。」
「あ、痛かった?」
「デリケート、なんだよ。」
「ふ〜ん… どうしたら気持ちいいの?」



「……竿のところを握って。」
「こう?」
両手で包み込むように握ってみた。
さっきより温度が増している気がしている。

「そのまま、上下に擦るようにして……」
「うん……」
……ぐにゃっとした感触だったのが、どんどん熱く、固くなってきている。


「う… 博美、ちょっと止め…」
「え? また痛かった?」
「いや… ちょっと気持ちよすぎてな。 危なかった。」
そうか… ここは力を込めても大丈夫なんだ…


「お前のも、触っていいか?」
「……ん。」
私もパンツを脱いで、お兄ちゃんの手を導かせる。

「どう……?」
「……熱いな。 そして柔らかい……」

自分の手とは違う感触。 食い込むように、大胆に触ってくる。


「濡れてきてる。」
「え…」
自分の中から漏れ出る感触があったかどうか… でもお兄ちゃんの指には確実にわかるらしい。

「お兄ちゃんも…」
いつの間にか私の指にも大きくなっていたモノから出ていたらしい液体が付着していた。
男も、濡れるんだ… お兄ちゃんも、興奮してるんだ…

「ん…」
唇ではなく、首筋にキスしてみる。
お互い触れあい、抱き合いながら、その時を確かめた。


「……いいか?」
「……うん。」

ごそごそとしながら、何かをしている。 たぶんコンドームを付けてるんだな。
コンドームしてると、精液が膣に出されない。
だから安心できる。 それが、大人のセックス……

「……入れるよ。」
「……。」

お兄ちゃんが覆い被さってきた。
私の指ともお兄ちゃんの指とも違う、つるんとした感触が触れてきて…
少しずつ、入り込んで…

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い! い!! い!!!
痛〜〜〜〜〜〜〜〜〜いぃぃいい!!!!
ホ、ホントにコレセックスなの!?
痛すぎて何も考えられない!!

「ちょ、お兄ちゃん、止まって…!」
「ど、どうした?」
「……痛い。 痛くて、我慢できない……」
「それは……破れた、からか?」
「うん……」


おそるおそる繋がっている所を触ってみる。 ……指にはべっとりと血が付いていた。
「うわ〜〜…… 見てコレ、すっごい血が出てる。」
「ええ!?」
「これは、かなり染みになるよ。あとでシーツを洗濯しないと……」
「いや…その…大丈夫、だよな?」
「私のこと?
 ……血が出てて、すっごく痛いのと苦しいの以外は……大丈夫かな。」


「お兄ちゃんは? どこも痛いトコとか無いんでしょ?」
「あ、ああ…… むしろ暖かくて…気持ちいいよ…」
「そう…… いいな〜… 最初から気持ちいいの……

 ……やっぱり、何回もしてたら…… 気持ちよく、なるのかな…?」
「……たぶん、な。」

お兄ちゃんが、もう私とセックスしないつもりなのは…充分わかってた。
でも「もう一回」とか「明日も」と言えば何回でもしてくれるだろう。
それがお兄ちゃんの優しさ。(そして、最大の弱さ……)

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「ね、キス…してていい?」
「いいよ…」と返事される前に唇に吸い付く。

「ん、んんふ……」
「う、んん……」
大人のキス、大人のセックス…
お兄ちゃんは、いつの間にそんな事を憶えたんだろうか…

「……初めてじゃ、無いよね?」
「え?」
「お兄ちゃんは…… したこと、あるんでしょ?」
「…………。」


「……ハッキリ言うとな、無いんだ。」
「え…?」
「……お前が、初めての相手なんだよ。」
意外な答えだった。
「そんな… だって、コンドーム、持ってたし… キスだって……」
「……確かに、女性と一緒にホテルに入ったりしたことぐらいある。

 ……けどな、なんか合わないんだよ。」
「合わない…?」
お兄ちゃんの顔が見えない。 暗くて、よくわからない……
「性格でもない、相性でもない……
 いざ事に及ぶ段階になっても、怖じ気づいて勃たなかったんだよ。」


「けどな…はは、今日は不思議と大丈夫だったんだよ。
 お前に触られて、勃っちまった……

 なんだかんだ言っても…お前から誘ったとしても……
 俺は、妹に欲情して、処女を奪った……

 いま気付いたよ。 俺は最低の兄貴、最低の変態なんだよ……」
笑ってる…… 美香ちゃんと、同じ?  …………。


「……いいよ。変態で……」
「……?」
「私だって…… お兄ちゃんが相手なのに、興奮してきてる……

 ……美香ちゃんにね、『私は変態じゃない』って言ったけど……

 やっぱり違った。 私も、お兄ちゃんも……
 しちゃいけないことなのに、それに興奮してる……変態。」
認めてしまった。 あんなに否定してたのに、割とあっさりと……


「ふふ…… ね、お兄ちゃんと一緒なら…… 私と一緒なら……
 変態でも、いいよね……」
もう泣いてしまいそうだ。 お兄ちゃんも、同じ様な顔をしている……

「……もういいよ。止めよう。」
抜け出ていこうとする感覚。 とっさにそれを引き留めるようにお兄ちゃんを抱きしめる。

「……ダメ。 最後まで、しようよ。
 せっかく、私とお兄ちゃんの『初めて』なんだから……」


「お前……いったいどういう……」
「もういいよ。何も考えなくて。 今は、これだけに集中しよ……」
「博……   わかった。」

そう…もう何も考えたくない。
ただこうやって、お互いの温もりに触れて…気持ちよくして…いたい。

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「ふあ… くう…… あぁ……」
いま、私の中に流れている感覚…それは『痛み』だった。
ただ単純に痛い。 肉の壁であった処女膜が、引き裂かれ、千切られて、
出来た傷口をさらに擦られているのだから、当然と言えば当然の事。

「博美… 博美…」
しかしお兄ちゃんの方は気持ちよさそうな表情だった。
腰を動かして、『女』の肉体に突き入れる『男』の快感を味わっている……

お兄ちゃんのアゴに垂れていた汗が、私の唇の辺りに落ちる。
舌を伸ばして舐め取ってみる。
……その塩気が、いま私たちが何をしているのか、脳にはっきりと伝わらせてきた。
そう、悲しくなる程に…はっきりと。


「……お兄ちゃん、……お兄ちゃん。」
「……ん? どうした…?」
「……お兄ちゃんが終わらないと……終わらないから……」
「……。」
「……好きな時に、出しちゃって、ね……」

漫画とかで、処女なのに、初めてなのにイク、なんてのは大嘘であるのが身に染みてわかる。
だってこんなに痛いのに、気持ちよさなんて全然わからない。

でも、お兄ちゃんを全身で受け入れて、
お兄ちゃんの動きを、体いっぱいに受け止めて……
この感覚は何? 独占、欲? お兄ちゃんを、私に、私だけに…?

この気持ち、もしかして…美香も?
だから、セックスしてたのかな… だから、私に見せて…?

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「う、ぅん…」
胸を舐められるのと同時に、お兄ちゃんの下の毛にクリトリスが当たって快感が走る。
思わず漏れた喘ぎを、胸の愛撫によるものとでも思ったのか、
それをきっかけにして、舐めるように吸い付かれる。
……でもいまは、こうされてた方が気持ちいいかもしれない。

乳首に吸い付かれるという行動は、本能的な母性を呼び起こされる。
男性は、異性に母性を求めている…
お兄ちゃんは、私に母親の替わりを求めているのだろうか……


……何も考えたくないはずのに、なんでこうも雑念が浮かぶんだろう……

もしかしたらそれは、否定したい…逃避行動なのかもしれない。
自分が、妹が、兄に抱かれているという事を
それによって…快感を感じる、感じてしまうかもしれない、という事を……
まるでそう、美香とお兄さんのように……


でも今更それがなんだろうか。
私とお兄ちゃんは、してはいけない…禁忌を犯してしまったのだ。
それこそ…あとはもう堕ちるだけ…ってヤツ…?

とりあえずは、このセックスを終わらせなければいけないけど
お兄ちゃん…なかなか終わらないな…

そりゃあ、膣内を擦られ続けていれば、防御のために愛液が出てきて滑りも良くなる。
痛みに対しても慣れが出来てもくる。
けど、やはりいまは、快感よりも痛みの方が上回っている…

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「博美…、もうイっていいか…?」
「……うん。」
いつでもいいって言ったんだから、せめて早めに…とは口に出さない。

「うぅ…く、あ…!」
抜き差しされる腰の動きが、さらに激しくなった。
こ、こんなに激しくしないと、ダメなの…?

そんなに激しくしたら… こ、壊れちゃう……
「博美、イク……    好きだ……」
え…?
「おに……」


びゅる びる ぶぢゅぢゅ……

お兄ちゃんの先端から出てくるものが、ゴムの壁に阻まれて潰れるような感触がする。
本来膣内に流し込まれるべき液体が、空しく溜まって…

ずるん と抜け出ていく。
まだ穴が空いているような、拡がってしまった空間の虚しさを感じた。
しかし、それよりも大きな、空虚な思いが頭の中に渦巻いていた。

『好きだ……』

二人共黙ったままで、けど、腕枕で微睡む脳にその言葉が響いて離れない。

お兄ちゃんは、好きだったの?
それは、妹としてではなくて……

視界の片隅に、ゴミ箱が入った。
雑多なゴミの頂点に、小さなゴムの固まりが僅かな光を反射していた。