デジタル化の意味


 生命が遺伝情報をデジタル化した意味を考えるために、最初にアナログ情報の特徴について考察します。そのために二枚の写真を上下に示しました。写真1と写真2の違いが見ただけでわかりますか。

写真1



写真2



 上下二枚の画像とも、320X240ピクセルのjpeg画像ですが、デジカメの写真を圧縮したものです。写真1は中画質で、データのサイズは35,376 バイトです。写真2は最高画質で、データのサイズは60,724バイトです。つまり写真1は写真2の約58%の情報量しかないわけです。ところが私は両者の違いを、簡単には認識できません。よく見てみて、何となく写真1の方がぼやけているのかなと感じる程度です。この2枚の画像は元はデジタル画像ですが、我々が視る時点ではアナログ画像と同様に認識します。このようなアナログ的な認識では、二枚の画像のどこが違うのかどの程度違うのか、明確には認識できないのです。

GATCCT→GATCAT

 それに対してデジタル情報であるDNAの塩基配列を見てみます。上に示したのは6個の塩基の並びですが、右側と左側を比較すると、五番目のCがAに変化しています。両者の違いは17%ですが、先程のアナログの場合と違い、どこが違っているかが明確にわかります。それによって複製の間違いがあっても、容易に修復が可能となるのです。デジタル情報の修復の容易さは、コンピューターでも利用されています。

 それ以上に重要なのは、生物の特徴として自然選択があります。いくら正確に複製しても、やはり間違いはあり、それを突然変異と呼びます。この五番目の塩基の突然変異の結果、元の配列も入れると以下の4種類の配列が考えられます。

GATCCT,GATCAT,GATCTT,GATCGT

 この四種類の塩基配列を持つ生物の個体が生じたとして、もしも変異が致死的であれば、生まれてすぐに死んでしまいます。生き残った場合は生存競争となり、より環境に適応した個体が生き残ります。四種類の配列で生存率に差があれば、自然選択によって最も適応した配列が生き残ります。ほとんど差がなければ、四種類とも生き残る場合もあるでしょう。この繰り返しによって、一番目から六番目までの配列が、ある一定の幅を持って決定されます。そこで環境に変化がなければ、その配列は維持されると考えられます。この自然選択が利用できることこそデジタル情報の利点と考えます。

 例えばコピーの正確さですが、99%の精度でコピー可能でも、70回コピーを行えば元のデータは50%以上が失われます。これを99.9%に上げたとしても、700回コピーすれば元のデータは半分以下となります。それに対して先程のDNAの6個の塩基配列で、元のGATCCTから一個でも違えば致死的であったとします。そうであれば完全に同じ塩基配列の個体しか残りません。この場合は常に100%のコピーとなります。より詳しくは自然選択とDNAを読んで下さい。つまりデジタル情報の真の優位性は自然選択にあるのです。例えば古代の本は、写本によって現代に伝えられています。これは一文字一文字を人間が認識して写本するので、どちらかといえばデジタル的な伝達です。おそらく一回の写本ではアナログコピーに比べると多くの間違いが生じると思われます。しかし、それを読む人が意味を理解していれば、大きな意味の違いにつながる間違いは、その都度訂正されたと思われます。これは自然選択に近く、そのおかげでユークリッドの原論のような古典が保存されたのだと考えます。それに対してアナログコピーは、意味がわからずに行われた場合、繰り返されると画像がぼやけ、最終的には元の文書は失われます。

 次に進化の問題を考えます。ダーウィンは「種の起源」の第一章では、人間による品種改良について考察しています。家バトを研究対象として、家バトに様々な品種が存在する理由は、突発的に起こる突然変異の中で、人間が目的に沿うものを選抜する過程にあると述べています。これは競走馬などでもよく知られた事実で、競走馬では血統が重視され、速い馬の遺伝子を持つ馬が高値で取引されます。ここでは速く走ることだけが重要です。別の例として犬の場合は、小さなチワワから大きなセントバーナードまで、様々な犬の品種が作られています。この場合は品種改良の目的によって、注目する特徴は違いますが、何か一つの特徴を重視する点は同じです。例えばブルドッグなどは、ブル・バイティングという競技で、牛と闘うためだけに作られた犬種です。ブル・バイティングが残酷だという理由で禁止になってからは、ブルドッグは絶滅の危機に瀕しました。そこでブルドッグを愛する人達は、ブルドッグをおとなしい犬と交配させ、外見に似合わぬ穏和な愛玩犬に作り替えたのです。このような品種改良は、人間が自然の代わりに選択を行いますが、その根拠となるのは、DNAがデジタルデータであるという点です。つまり一つの特徴だけに注目して選択が行えるということです。これはコンピューターのソフトウェアについても同様です。ソフトウェアが市場に出て、改善すべき点が見つかった場合、そこだけを書き換えるか、書き加えるだけで良いのです。そして色々なプログラムがあれば、より良いものを選択することが可能です。ただ現状では、その通りなっているのは、オープンソースのプログラムぐらいですが。本来であれば、デジタルデータは部分的に書き換えることが可能なので、進化させやすいのです。


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