♯ヒコさん心の一曲−クラリネット五重奏曲(モーツアルト)


・「朝の目覚めは、モーツアルトの『クラリネット五重奏曲』
 で!」という友人がおりました。前の晩にいっしょに飲んで、
 泊まった友人の家。窓から初夏の日差しが差し込む部屋。
 『クラリネット五重奏曲』第1楽章アレグロの「ソミレド」
 が、優しく日差しにからまりながら部屋を満たしていきます。
 二日酔の頭には、もったいないような朝のBGMです。

・モーツアルトは、クラリネットの音色をとても愛していた
 といわれています。クラリネットの為に『クラリネット
 五重奏曲』、「クラリネット協奏曲」を残しています。
 もちろん交響曲等の中でも重要なメロディーを担当させて
 います。

・『クラリネット五重奏曲』は、モーツアルト晩年の傑作
 です。私には、第1楽章の「ソミレド」がモーツアルト
 のため息、または「ヤレヤレ」という声に聞こえます。
 一般的に当時の作曲料はとても安く、演奏する機会も限ら
 れていました。そこでモーツアルトが思いついたのが、
 「予約演奏会」でした。最初は盛況だったものの、最後は
 数名の予約しか入らない状態となっていきます。
 今でこそ神童、天才といわれ、「癒しの音楽」の頂点の
 モーツアルトですが、当時の人々には、斬新で新し過ぎた
 ようです。
 自分の才能を信じ、絶対の自信を持っていた彼にとって
 「どうして僕の音楽は受け入れられないだろう?」。
 強いショックと厭世観を持ったのではないかと思います。

・「働けど働けど 我が暮らし楽にならざり じっと手を
 見る」。これは石川啄木の俳句ですが、天才同士というか、
 モーツアルトも同じような心境で、晩年を迎えていたので
 はないかと思います。モーツアルトには、子供が二人いま
 したし、家計のやりくりが下手(?)といわれる悪妻コン
 スタンツェもいました。しかし、モーツアルトは、浮気も
 しましたが、最後までコンスタンツェを愛していたようです。

・太陽の画家ゴッホは、最後は心の病となりピストル自殺を
 してしまいます。今や日本のテレビコマーシャルで使われる
 ほど有名なゴッホですが、彼の生前に売れた絵は一枚だけ
 でした。モーツアルトは、自由な作曲活動を目指しましたが、
 今の彼の評価に見合う程の収入は得ていません。
 それに夫婦そろって遊び好きで、家計は火の車でした。
 コンスタンツェとお金の事での喧嘩も度々ありました。
 しかし、モーツアルトが五線紙に向かうと、美の神ミューズ
 に導かれるように、彼の頭には天上の音楽が流れ、それを
 通訳するかのように彼の手は動いてゆきました。
 その時が、彼の「生」があふれ出る時だったのではないか
 と、私は思います。

・『クラリネット五重奏曲』第4楽章アレグレットは、同じ
 メロディー(主題)を形を変えながら繰り返すバリエー
 ション形式です。曲の最後でテンポをグッと落とします。
 そして、インテンポ(元の速さに戻す)で終わります。
 私は、この部分を聞くとなぜか?列車の窓から手を振り
 ながら去って行くモーツアルトの絵が見えます。
 (なぜかな〜?自分でもわかりません?)
 ちなみにモーツアルトの時代には列車は、まだ登場して
 いません。
 
 (206-2006/07/01記)

 *著作権の関係で音や歌詞等は載せる事はできません。
  機会があれば原曲を聞く事をお勧めします。

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