★ 大河ジャバジを渡る

『モンスター事典』のスナタ猫の記述をみると、この猫はバク地方では有名な猛獣とのこと。だが、他の地域ではそこまで知られた存在ではないようだ。現に、アナランド人の主人公はスナタ猫のことを遭遇するまで知らなかった。ところが主人公が最初に出会う、この猫について知っている人物は、なんとシャムタンティのクリスタタンティに住んでいるのである。村では一番頭が弱いと目されるこの若者。一体何故スナタ猫の名を知っていたのだろうか? 彼が実際にカーカバードを旅し、スナタ猫と遭遇あるいは猫についての話を聞いてきたと考えることはできる。村の連中は遠き地のことを語る彼に「夢見がちな大ぼら吹き」のレッテルを貼ったのかもしれない。我らの歴史でも多々あったケースであろう。

 ところで、クリスタタンティの若者が旅をしてスナタ猫に出会うためには、あの大河ジャバジを越える必要がある。主人公はジャバジを渡るために、危険極まりないカレーに入らざるをえなかったほどの交通の難所だ。そのカレーにおいては、北門を開けるのに大掛かりな冒険をする必要がある。そうほいほいと誰もかもができることではない。クリスタタンティの若者はどうやってジャバジを越えたのであろうか。
 まず主人公を見てみよう。彼は行きこそ北門の呪文を求めて苦戦したが、帰りはシンの篤志家の手に依ってジャバジ上空を越えている。マンパンの鳥人たちも、冠を盗むために川を越えている。七大蛇(二匹ほど難しそうなのがいるが)もまた然り。空を飛べるならば、ジャバジは難なく攻略できることがわかる。だがしかし、クリスタタンティの若者には当然ながら翼は無い。彼は偶然猫の名前を口走っただけだったのだろうか?
 手段はともかくとして、可能性の話をすると、彼がジャバジを渡ったことは充分にありえる。マンパン砦の中で遭遇する赤目たちとの問答を思い出してもらいたい。彼らは主人公の出身地を尋ねてきた。そこで選べる答えの中にずばりクリスタタンティがある。クリスタタンティから来たと答えた場合、赤目たちが疑いをもつ理由はマンパンまでこれるはずが無い、ということではなく伝統的な髪型に関してのものだった。つまり、クリスタタンティからマンパンへ旅をしてくることは充分想定できるということだ。そもそもこの赤目たちからしてカレーからやってきている。そして同じ中庭には、アナランドから来たという物見たちもいるではないか。彼ら全員がカレーの北門を開けてきたとは思えない。やはりジャバジを渡る方法はあるということである。主人公があまりにも頭が回らなかったのか、あるいはそのジャバジ渡河の方法をとるとマンパンにすぐに気づかれてしまうかのどちらかだと思われる。

 では、実際にジャバジを渡る方法を考えてみよう。先ず第一に思いつくのは、海とカレーを行き来する船に頼んで渡らせてもらう方法だ。この航路をとる船は海賊船が多いので、よほどうまく立ち回らないと奴隷としてガレーオールをかつぐことになるだろう。逆にカレーよりも上流ではどうか。ラムレ湖へ向かうのは一転して漁船が多くなるだろう(wikiなどによると、カレー名産マトン魚はラムレ湖で取れるのだという。)から比較的安全に渡し船を募ることができたであろう。主人公の旅の計画を立てたのが彼本人なのか、それともアナランドの要人たちなのかは不明だが、いずれにせよアナランド人というものは融通や機転の利かない人種らしい。正攻法にこだわるお国柄なのかもしれないが。

(8/8/12)

★ その後のマンパン

 ザンズヌ連邦という場所は、もともと争いの耐えなかった土地である。ここに大魔法使いがふらりと現れ、オークやゴブリン、トロールらを従えて砦を建設したと『タイタン』にはある。その過程でシンの鳥人の指導者を謀殺し、後に篤志家という敵を作ることになった。同じように敵対した連中も多いはずだろう。大魔法使いは力づくでマンパンをものにしたのである。そして、自らが取った手法の代償として常に敵に怯える羽目に陥った。いつ、かつての自分と同じように力で全てを奪わんとする者が現れるかわからないのだ。

 時は過ぎ、アナランドからの刺客によって大魔法使いは倒れた。唯一の法が潰えたマンパンは、再び混沌の時代を迎えようとしている。この激変をいち早く知り、見事に流れを御して大魔法使いの後を継ぐのは何者であろうか?

 先ずは砦の中を見てみよう。ここから新たな覇者は出てくるであろうか? 大魔法使いの正体である、冥府の魔王が倒れると同時に、暗黒の神々の加護は無くなるだろう。死霊術の産物である影武者はその場で死体に戻るはずだ。七大蛇が生き残っていたとしても、彼らも同じ運命をたどる。そこにはヒドラから切り取られた首しか残らない。
 衛兵たちを率いる隊長カルトゥームと、マンパンの鳥人たちは砦における二大勢力である。鳥人たちは大魔法使いから宝石や金品で雇われていたと「タイタン」には明記されており、おそらく衛兵たちも同じだろう。彼らの故郷はマンパンではないので、雇われて砦に常駐しているとしか思えないからだ。砦の建設時に部下だったオークらは、おそらくこの時点ではもう残っていない。ゲーム本編内には、彼らの記述は一切無いからだ。影武者の台詞に影を残すクラタ族も、既に役立たず扱いだ。おそらく彼らは変異ゴブリンたちや一撃ニブダム君を産み出す実験の過程で消費されていったのではないだろうか。
 他の連中はどうだろうか。多くの恨みを買う身であるナガマンテは早々に消されてしまう可能性が高い。だが、頭のいい彼のことだ、そうなる前にマンパンから逃げ出している可能性はある。この点ではヴァリーニャや商人のナイロックも同じで、さっさと砦からおさらばしていると思われる。もっとも、砦の外で無事に生きていられる保障はないが。では粘液獣、大山嵐(棘棘したやつら)、黒エルフ、赤目、リッド(ノーム)、物見らはどうだろうか。衛兵側につくか、鳥人側につくか。あるいは逃げ出しているか、殺されているかだろう。彼らが第三勢力を立ち上げているとは思えない。鳥人らは種族主義かと思うので、つくならば衛兵側だろう。こっちの陣営は大将からして混成軍の様相を持っているからだ。
 ……1つ忘れていた。あの変異ゴブリンたちが解き放たれていた。彼らの暴走は砦の中を混乱に落としいれるだろうが、二大陣営によって制圧されると予測される。

 一方砦の外はどうだろうか? 砦を快く思っていなかったシンの鳥人たちは、すぐにでも砦の残党を攻撃するべく立ち上がるだろう。アナランド人を送るのには鳥人が1人いれば充分だ。篤志家の残り2人は、そのままシンへと戻ったに違いない。
『タイタン』にその存在が記されている、オークの切断族。大魔法使いが支配するザメンで一部族として名を成すぐらいであるから、きっと独立した存在だろう。彼らもまた、この期にぞんぶんに暴れるであろうことは想像に難くない。
 今まで砦の勢力を恐れていた女サテュロスたちも、報復に出るかもしれない。七大蛇が散々悪さをしていたせいで、恨みは募っているのだ。マンパンの残党が砦内の掌握に時間をかけてしまうようであれば、これら砦外からの圧力で押しつぶされてしまうだろう。

(8/8/12)

【追記】
 ところで大魔法使いが去った後、スローベンドアはどうなったのだろうか? あの恐るべき効能は消え失せたのか、あるいは大魔法使いがいなくともその魔力は残っているのだろうか。これによって砦に残された者たちの生存率が大きく変わるような気がする。混乱の中で自由に動けないことは、ただ座して死を待つに等しい。

 とりあえずわかっていることがある。第一のスローベンドアは機械仕掛けなので、未だ健在なのは間違いない。鍵を掴めたものは安全に通ることができるが、そうでない者は次々と毒針にやられてしまうだろう。
 もう一つ確実と思われるのは、眠れるラムはもう動かないということだ。冠を取り戻した主人公が砦から脱出するために螺旋階段を下りたとき、階下の扉の向こうには既に衛兵が押し寄せているのだが、そここそはラムの間のはず。衛兵たちが一網打尽にされていない以上、あの恐るべき彫像はもう動いていないということになる。大魔法使いの魔力で動いていた――つまり、あのラムを造ったのは奴だったわけだ。

 第二と第三のドアについては断定できる材料がない。個人的にはラムと同じように魔力は失われていてほしい。でないとあまりにも砦の残党が哀れすぎる……

(6/26/22)

★ 命令違反

 やはりマンパンには秩序など無い。大魔法使いの恐怖政治による秩序ですら、だ。
 大魔法使いの部下たちには、たびたび命令違反している姿が見受けられる。ちょっと褒められたり、あるいは女沙汰でスローベン・ドアの秘密を洩らす輩もいる。もっともこの連中は、大魔法使い自身のやり方があまり人を惹きつけないし忠誠度も怪しいところだろう。だが、大魔法使いに絶対の忠誠を誓っていると思われる連中ですら、時には命令違反を犯しているのである。……七大蛇たちだ。

 第三巻で登場する彼らの使命は、アナランドからの刺客がマンパン砦へ向かっていることを知らせることである。事実七匹はバクランドを北上しており、主人公を抜かして先回りしている者も多い。そう、先回りしているくせに、奴らは主人公を待っている節があるのだ。特に時大蛇などは、七匹のうち最も速く飛ぶといわれているが、遭遇するのはマンパンのすぐ前、ヴィシュラミ沼だ。主人公は徒歩でマンパンへ向かっているため、沼地で大蛇に追いつくなどということはありえない。大蛇側で主人公を待っていたのは確実である。前半出会う大蛇たちは、偶然主人公と鉢合わせしたということもあるだろう。だが後半、しかもクライマックスに立て続けに現れる3匹に関しては、主人公を待ち構えていたと断言してもいいと思える。
 彼らは、自らの職務を放棄してまで、主人公の抹殺を狙うのである。その理由として思い当たるのは、日輪大蛇との連絡が途絶えたからではないかということだ。日輪大蛇は七大蛇に挑むべく画策している魔女フェネストラによって捕えられている。彼女が主人公に語ったところによれば、こうして日輪大蛇を捕えておけば、他の大蛇は日輪大蛇を探しにやってくるに違いないという。つまり七大蛇たちは強い仲間意識によって結ばれていると推測されるのだ。長距離を飛ぶことが難しいであろう風大蛇と、空を飛ぶことができない土大蛇がジャバジ河を渡るためには、他の大蛇の助けを借りるしかない。アナランドからの知らせの手紙にも、七大蛇はバクランドまでは一緒に行動し、その後は別行動をとるだろうとある。全ての状況や情報が、奴ら七匹の結びつきの強さを証明している。

 つまり、主人公が倒した大蛇たちからの連絡が途絶えた――あるいは同じヒドラから生まれた者同士の、虫の知らせで――ことを知った残りの大蛇らは、知らせを砦に持ち帰る使命よりも、自らの手で復讐することを選んだのだ。バクランド中で恐れられる自分たちに弓を引くなど、アナランドの刺客より他はないと彼らは考えたのだろう。もしも主人公が七大蛇を一匹も倒していなかったとしても、伏兵フェネストラが日輪大蛇を押さえている。仲間を殺した容疑は主人公へとまわってくるのだ。

(8/8/12)

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