★ トロールの幸運

 ビリタンティの手前で、番兵をしているトロールがいる。彼の首には幸運のお守りが下げられていて、これは身に着けた者が運試しを行う際に、サイコロの目から1引くことができるという品である。だが本文では「トロールには御利益がなかった」などと書かれてしまっている。実際のところトロールは主人公に倒され、しかもお守りを奪われてしまっているのだから確かに御利益は無かったと言えるだろう。

 でも、実はそんなことは無いのだ。偽の術《KIL》を選択した時、彼に幸運が訪れるのである!
 「たまたま当たった一発」の攻撃によってトロールは主人公を返り討ちにすることに成功するのだ。デッドエンドである。ちなみに旧訳では「みごとなパンチが命中」と訳されているが、ここの描写は原文だと「lucky blow knocks you」なのである。まさしく幸運の一撃なのだ。これはお守りの御利益に違いない。

 ところでこの幸運をトロールにもたらし、主人公は死んでしまう選択肢が「KIL」―― KILLから連想される偽の術 ――というのは中々に洒落が効いているよね。

(1/4/20)

☆ ブラック・ムーンの夜

『ソーサリー!』冒頭に掲げられた「王たちの冠の伝説」。ここにはアナランドが如何にして冠を授かり、そして失ったかが書かれている。ブラック・ムーンの夜にザメンのバードマンたちに盗まれてしまった、あの忌まわしい事件についてのあらましだ。

 英語で Black Moon というと、一応天文学・暦関連の用語の一つらしい。出展が英語版 Wikipedia なので信憑性は微妙であるが、ともかく以下のような状態のときに、 Black Moon という言葉をつかうようだ。


1)一か月のうちに二度目の新月がある場合
2)四回の新月を含む季節
3)一か月のうちに、一度も満月がない場合
4)一か月のうちに、一度も新月がない場合

 いずれも期間的な状況についての名称であり、その夜そのものが特別な環境になるというものではない。

 さて、一方カクハバードにおける Black Moon の夜とはどんなものだろうか。「王たちの冠の伝説」によれば、星一つない夜だと書かれている。月が無いだけの夜ではなく、文字通りの闇夜になったということらしい。冠の盗難が一大事とされているのに対し、特に天変地異的に騒がれた様子はない。つまりこれは、時折起きるアナランドではよく知られた天体現象なのではないだろうか。

 ところで気になるのは鳥人たちであります。星明り一つない闇夜で盗みを働くとなると、夜目が効かなければなりますまい。ザメンの鳥人たちはフクロウ型なのだろうか? とくにそんな描写は本編でも『モンスター事典』でも見当たらない。冠の奪取は鳥人には不可能と思えるが……なんてことはない、夜目の効く共犯者がいればいいというだけである。そう、サイトマスターだ!
 彼らの超視力なら、闇の中でも目が効くかもしれない。少なくとも鳥人よりは見えることだろう。アナランドを裏切ったサイトマスターが冠を盗み、鳥人はサイトマスターを連れてマンパンへと飛び立ったのではないだろうか。シンの鳥人たちを思い出してみるがいい。彼らはマンパンからアナランドまで主人公を送り届けることができた。ならばザメンの鳥人にも同じようなことができるはずだ。マンパン砦の中庭にいる裏切者のサイトマスターたちは、ブラック・ムーンの夜にマンパンへとやってきたのではないだろうか。

 創土訳では「黒い月の夜」と訳されているのですが、ブラック・ムーンとカタカナ語化された旧訳のほうが記事にしやすかったので、今回は創元版の記述をもとに書きました。

(1/18/20)

★ アナランドのスナタ猫

 スナタ猫と遭遇した時、姿を消すという能力に我らのアナランダーはまったく対応できていない。スナタ森に入ったというのに、その名を冠する獣に警戒するというそぶりも見せておらず、スナタ猫について全く知らなかったのではないかと思わせる描写だ。クリスタタンティでも「スナタ猫!」と言われていたが、何のことやら意味不明だったのかもしれない。
 と思いきやカントパーニで歯の袋を購入した際、このアナランド人はなんとスナタ猫の牙を見分けている。さて、このギャップはどういうことだろうか。

 アナランドはカーカバードに隣接し、かねてより大塁壁を建てるなど時代を超えて警戒を怠らなかったことがわかる。現在も物見の戦士たちが国境をしっかりと守っているのだ。旅立ちに際して物見頭からもらえる助言から考えられるに、カーカバードの情報もしっかりと収集しているようだ。となると、スナタ森の猛獣についても何らかの知識があってもおかしくはない。
 国の希望となり、カーカバードを横断する任務を買って出た勇ある者には、あらゆる危険を回避できるよう最大限の配慮があっただろう。チャウベリーの剣術指南学校での訓練といい、アナランドの呪文書を勉強させてくれることといい、任務達成のために役立ちそうなことは全て与えられたはずだ。スナタ猫に関する知識も、同じくであろう。

 牙を見て判別できるほどの知識を得たものの、実物と対峙したときには後れを取ってしまった我らのアナランド人。きっとアナランドにはスナタ猫の全身骨格か(姿を消すことはできない)剥製があるのだろうが、詳細な生息地など判っていないのではなかろうか。それがカーカバードの猛獣とは知っていても……。

(1/26/20)

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