マンパン砦の奥の奥、ねじくれた尖塔の一番上の部屋で真鍮の碗を手にドアの陰に身をひそめる男。それがファレン・ワイドである。彼はラドルストーンからかどわかされてきた科学者と名乗り、その最たる発明は閃光粉末だという。しかし彼の中にこそ、かの大魔法使いが潜んでいるのだ。
さて、このラドルストーンの発明家だというこの話だが、ジャンは嘘っぱちと一笑に付している。ファレン・ワイドとは虚構の人物なのだろうか? だがラストバトルが終わった後に彼をRESで生き返らせると、どうやらファレンには彼自身の人格がある様子。シンの篤志家とも交友をもっており、どうにもこれが偽物の人格だとするのには無理がある。そうなると彼は一体いかなる人物なのか……やはりラドルストーンの発明家なのではないだろうか。先のジャンの証言に関しては、彼は「今のファレン」についてしか知らないということだろう。ジャンは主人公と同じくマンパン砦の新参者なのだから。
しかし例の身の上話は明らかに大魔法使いの意志による発言である。魔法をお目にかけようなどと言っているが、魔法という言葉の選択も、方法も、そして目的もどう考えても発明家のそれではない。呪文によって現れた塔は、監獄塔なのだ。RESで生き返った彼は、主人公と初めて会ったような受け答えをするし、遭遇時のメソメソからすでに大魔法使いの演技であることは明白である。しかし殺風景な部屋に閉じ込められているくせに、「強制的に研究を続けさせられている」とはどういうことだろう。主人公をだますためのシナリオだとしても大分無理があるように感じる。大魔法使いも馬鹿ではあるまい。つまり、ファレン・ワイドは本当に発明家で、ゲーム中に手がかりとして示されることはないが、設定的には砦の中にはファレンの情報を得る機会があってもおかしくはないということなのだろう。そう、シンの篤志家たちである。ファレン・ワイドに銀の呼子を渡しているほどなのだから、その境遇も知っているに違いない。(ただ、彼が大魔法使いの隠れ蓑にされていることには気づいていないということになるが)
そうなると一つ疑問がわく。例の閃光粉末の技術はマンパンに奪われてしまっているのであろうか? わざわざ攫ってきたのだから、閃光粉末はマンパンの新たな力になることを期待されていたはずだ。だがそれらしい兵器はマンパン砦には存在していないように見える。そしてファレン・ワイド自身は今や魔法使いの隠れ蓑で、充実した研究設備を与えられていないのは先に述べたとおりだ。
私が思うに、攫われてきたファレン・ワイドはマンパンへの協力を拒否したのだ。即座に殺されなかった、あるいは大魔法使いに乗っ取られなかったことは間違いない。シンの篤志家とのつながりを持つ時間があったはずだからだ。表向き協力するふりをして、実際には何一つ成果を出さないでいたのだろう。やがてしびれをきらした大魔法使いは彼の研究に期待することをやめた。大魔法使いのことだからもしかしたら彼の思惑に気づいたのかもしれない。いずれにせよファレンは別の役目を背負わされることになったのだ……。
【追記】
魔法をお目にかけようってのは旧訳準拠でした。しかも魔法じゃなくて魔術だった。創土版では芸。原文では Trick となっていて、いずれにせよ発明家っぽくはないと思います。
ちゃも : 『貴女もヒロインになれるっ!』 のコーナー!
もけきょ: 2020年にもなってワシらに出番じゃと……?
ちゃも : お久しぶりです、皆さま!
もけきょ: で、ヒロインになりたいとぬかす無謀な輩がおると
ちゃも : ちょ、暴言……!
一寸待ってくださいね、えーとお手紙お手紙……と
種族も違うあの方を慕っていると父に告げたのですが、軽はずみなことを言うなと怒られてしまいました。
村の命運を担う身なのだから、村の者と添い遂げよというのです……
でもあの方のことが忘れられません。どうにかならないでしょうか?
トレパニ在住、生贄経験ある女
もけきょ: トレパニといえばスヴィン族……
そんな気はしてたんじゃ(ため息)
ちゃも : 問題は二点、種族が違うということと村での立場。ですね
もけきょ: スヴィンという種族についてじゃが、『モンスター事典』にもあるように人とオークの混血じゃ
ちゃも : 想いを寄せているのはアナランドの英雄ですね。スヴィンと人間。何かいい手はありませんかねー?
もけきょ: スヴィンという種の解釈次第じゃろうな
ちゃも : いいアイデアがありますか!?
もけきょ: 『モンスター事典』を見る限りではあるが、
人間とオークの混血とされる人オークの項に「トレパニなど集落を構成」しておるとある
つまり、人オーク=スヴィンと言えるじゃろう
ちゃも : 確かに
もけきょ: じゃが、人オーク=種族と明言はされておらん。あくまで「人間とオークの混血」とも読める
ちゃも : ……それって、つまりトレパニの住人は寄せ集めで、全員が人とオークの子ってことですか?
無いですよ! どう考えたってスヴィン同士で結婚してスヴィンの子が産まれてますって!
この子だって酋長の娘じゃないですか
もけきょ: 『シャムタンティの丘を越えて』を読む限りでは、もちろんそうじゃ
スヴィンは種族。そう考える方が自然じゃ
ちゃも : 何が言いたいのかよく分からないですね
もけきょ: ところで、ちゃもや。血液型ちゅうものを知っておるかね?
ちゃも : 何です? いきなり。もちろん知ってますよ。A型とかAB型とかでしょ?
もけきょ: スヴィンとは、人間の血とオークの血が混じっとるわけじゃから……
ちゃも : ……また無茶苦茶なことを口走りはじめましたね?
もけきょ: 全てのスヴィンには人間とオークの因子が含まれておるのじゃ
第一世代、つまり最初のスヴィンは人間とオークの混血で産まれるのだから、因子は「人間-オーク」となる
ちゃも : あ。つまり、AB型ですか
もけきょ: イメージはそんなところじゃ。血液型と違うのはオーク、人間の二因子しかないということじゃな
スヴィンの両親から生まれる第二世代以降は、「人間-オーク」「人間-人間」「オーク-オーク」の三種がありえるとは言えんかな?
ちゃも : じゃぁ、もしも彼女が「人間-人間」だったら!
もけきょ: そういうことじゃな。もちろん生まれはスヴィンじゃが、生物学的には人間と変わりはない
これならアナランドの英雄とくっついてもかまわんじゃろ
ちゃも : 問題の一つはこれで解決ですね
ちゃも : 家柄の問題ばかりはどうにもなりませんね。思い切って村の掟なんて放り捨てて家出してみては?
もけきょ: 待て待て、幼い娘が一人でカーカバードを旅するなんて無茶というものじゃよ
ちゃも : もけきょ先生、ありがとうございました
でも一巻のイラストを見た感じ、全員「人間-オーク」に見えるのですが……
もけきょ: たまたまそういうヤツらが集まったんじゃろ
それにだいたいからして、絶世の美女アリアンナも似たようなもんじゃし
ちゃも : ちょ、暴言……!
――カット
『ソーサリー!』の冒頭を飾る「諸王の冠の言い伝え」では、如何にして魔法の冠が発見されたか、そしてその冠の力がどう扱われたかが語られる。そして盗まれた冠を求め、野望を抱く大魔法使いの元へ奪還の旅にでるのが、主人公である貴方だというわけだ。
さて、この「言い伝え」であるが、旧訳では「王たちの冠の伝説」と訳されている。原文でも「The Legend of the Crown of Kings」だ。言い伝えや伝説というからには、それは古くから伝えられた伝承なのだという印象を受けるのは私だけだろうか? しかしここで語られる冠の逸話は、せいぜい数十年程度昔のことなのだ。アナランドから冠が盗まれる、つまり貴方が旅立つ二年前(貴方の訓練にかかった時間があるので、実際にはもう少し前だが)にアナランドは冠を授かった。その前にもいくつかの国が冠を与えられている。文中でわかるのはガランタリア、ブライス、レンドルランド、ラドルストーンの各国で、一つの国に与えられる期間は四年間だ。アナランドの二年を合わせても二十年弱となる。冠の持ち主であるフェンフリーが国を栄えさせるために費やした期間はわからないが、冠を貸し出すことを決めたのが、冠の発見者であるチャランナ王その人なので、どんなに長くみても五年以内だろう。フェンフリー同盟に加わる国のために与えられるのが四年であることを考えると、フェンフリーの安定のために何十年もかかるとは思えない。つまり冠が発見されてからせいぜい四半世紀ぐらいと思われるのだが、こんな最近の出来事に対して「Legend」というのはどういうことだろうか?
一つ考えられる可能性がある。「The Legend of the Crown of Kings」は『ソーサリー!』本編、アナランドの英雄の話とは語りの時間軸が異なるという考え方だ。この「Legend」は、一人のアナランド人が自ら冠奪還の旅に志願するところで終わっているが、それに続く貴方の旅もまた「Legend」に含まれるのではないだろうか。「The Legend of the Crown of Kings」は貴方の冒険よりもずっと後代になって語られているとすると、辻褄が合うように思えるのだ。
そうなると今度は旅の結末を踏まえて「Legend」は語られていると思いたくなるものだ。冠は無事にアナランドに戻り、フェンフリー同盟はなおも栄えたのだろうか。それともマンパンの大魔法使いが冠の力でカーカバードを統一し、フェンフリー同盟と戦いを繰り広げたのだろうか……?